宇宙から単独作業員の安全を守る 海外事例に学ぶ「Globalstar衛星IoTソリューション」のベストプラクティス

 コロナ禍によって人々の働き方は大きく様変わりした。企業は従業員の安全を確保するために働き方改革を推し進め、在宅ワークやWeb会議は日常的なビジネスシーンに溶け込みつつある。さらに現在はアフターコロナを見据えて、オフィスや自宅、シェアオフィスなど、作業内容に応じて生産性高く働ける場所を能動的に選択するハイブリッドワークも注目されている。

 その前提となっているのは、人々が日々当たり前のように利用しているモバイルネットワークだ。総務省によれば、日本における携帯電話網の人口カバー率は99%を超えており、誰もがスマートフォンを片手にいつでも欲しいときに欲しい情報を得、モバイルPCで場所に縛られることなくビジネスを行っている。コロナ禍をきっかけに新しい働き方が一気に浸透したが、すでにその土台となる環境は整っていたという見方もできる。

 その一方で、昨今の働き方の変化はあくまで携帯電話網をベースとした、モバイルネットワークに依存しており、そこから取り残されている労働環境も多い。例えば、日本は国土面積の3分の2が森林地帯という世界有数の森林国であり、居住者のいない地域も含めた携帯電話網の面積カバー率は7割を下回るともいわれている。このため山間地域の開発や鉄道敷設に携わる作業員、林業従事者、環境調査員などは対象外だ。

 なかでも山間部で働く作業員、特に広範囲で活動する単独ワーカーは、労働災害が発生した際に発見が遅れやすいという問題に直面している。悪天候による遭難や転落・転倒、伐採器具による自傷など、すぐに連絡が取れれば軽度で済んだ事故も、発見が遅れたために重篤化し、死亡災害につながってしまうケースは後を絶たない。

 こうした産業の持続的な発展のためには、労働力不足を解消する新規就業者の確保や若手の育成と同じく、労働環境そのものをどう整えていくかも欠かせない視点である。携帯電話網のカバー範囲から外れた、いわば“現代の命綱”が届かない場所で働く作業員の安全をいかに確保するか――そこで注目されているのがGlobalstarが提供する衛星通信とGPS位置情報を活用した衛星IoTソリューションだ。

1414キロの高度で周回する32機のGlobalstar衛星がSPOTシリーズのGPS位置情報を取得。Globalstarの地球局を経由してユーザーの位置情報がサーバに送られ、PCやスマホでユーザーの場所を特定する

 Globalstarが提供する衛星IoT製品群の中でも、山岳利用の定番モデルとして世界中で利用されている「SPOT」シリーズは、緊急時に国際緊急対応機関へ連絡するS.O.Sボタンを標準で搭載し、2007年のサービス開始以来、この救助要請によって8100人を超える人命救助に関わったという。ここでは最新モデルの「SPOT Gen4(スポット・ジェン4)」を中心に海外での活用事例を紹介していこう。

カリフォルニアの大森林で作業する電力送電会社のリモートラインワーカー

 1つ目は米国とカナダで事業を展開する電力送電会社の事例だ。同社はカルフォルニアにある2つのエネルギープロバイダーと協業し、遠隔地の電力線や電柱の点検と保守を行っている。1人の作業員が検査するのは1日に35〜50カ所。検査に赴く場所は遠隔地にあるため、熱中症など単独行動におけるリスクだけでなく、熊などの危険な動物も存在し、作業員の安全確保が事業運営上の課題となっていた。そこで目を向けたのがGlobalstarの衛星IoTソリューションだ。

宇宙から単独作業員の安全を守る 海外事例に学ぶ「Globalstar衛星IoTソリューション」のベストプラクティス

 同社はリアルタイムGPSマッピングプラットフォームに接続されたSPOTシリーズを300台導入し、端末操作を習得するための専用トレーニングプログラムも開発。作業員に対して繰り返しトレーニングを実施していたという。そして遠隔地の検査に向かう際はSPOTを携帯し、デバイスのチェックイン機能を利用して安全監督者に自身のステータスを送信していた。

 この安全対策はすぐに効果が現れた。あるとき検査現場へ移動する作業員が猛暑による脱水症状で動けなくなった際、衛星通信を経由したS.O.S信号が緊急対応機関に送られ、捜索救助サービスによって無事作業員を助け出すことに成功したという。

 冒頭でも触れたように、社会環境が激変する中で従業員の安全や健康をどう守っていくかは企業にとって避けられない経営課題の1つだが、これは危険地帯で作業を行う単独作業員に対しても例外ではない。同様の課題を抱える日本企業の安全監督者や運用部門のマネジャーにとって、同社の活用事例は大いに参考になるはずだ。

資源セクターで働く作業員にどこでもリアルタイムで通信できる環境を提供

 次に紹介するのは自然豊かなカナダ西部で事業を展開するRidgeline Canada Inc.の例だ。同社は石油や天然ガス、鉱業、電力などを供給する資源セクターの各企業に対して、メンテナンスや緊急対応、廃棄物管理などの環境ソリューションを提供している。当然、作業はモバイルネットワークの届かない地域をまたぐため、どこにいてもリアルタイムに通信が行える環境を整備し、インフラ提供会社へのサービス中断リスクを減らす必要があった。

 そこで現場の従業員にSPOT端末を配備し、チェックイン機能を利用して現場の作業員の位置情報を本部の管理者に伝える仕組みを導入。追跡モードを使用し事前に設定された間隔で作業員の位置情報を把握できるようにした。また、PCやスマートフォン、タブレットなどからSPOT端末の位置情報を閲覧できるWebブラウザベースのSPOTマッピング上では、誰がどこにいるのかすぐ把握できるように異なる色で管理しているという。

 「SPOTは操作もシンプル。ボタンを押すだけで、従業員の福利を守り、誰かが常に“そこ”にいることを保証してくれる。もはやチームには欠かせないものだ」とRidgeline Canadaの安全管理部門のマネジャーは話している。

鉱物探査や消防活動でも活躍するGlobalstar衛星IoTソリューション

 カナダで採掘事業を営む鉱物探査会社や、スペインのアンダルシア州消防局組織などでもSPOT端末を用いた位置情報ソリューションが活躍している。

 前者は携帯電話の圏外エリアをはるかに越えた場所で作業を行うことが多く、鉱物調査のためにトラックで目的地に向かい、そこからさらにスノーモービルを使って現場を調査する。そこで、SPOT端末により測量したルートをGPSでマッピングし、調査のバックアップと作業員の安全性を確保しつつ、オペレーター側も作業員がどこにいるかを正確に把握できるようにしたという。

 一方、スペイン南部の広大なアンダルシア州で森林火災に対応し、 5000人規模の対応要員を要する行政機関「INFOCA」では、新型コロナのリスクから消防士の安全を守るため、広範囲にわたる信頼性の高い追跡システムを導入する必要があり、その解決策としてSPOT端末を550台導入した。

 これにより、SPOT端末のS.O.Sボタンを押すだけで消防局組織にアラートが表示され、衛星通信によって地域の消防隊と車両の位置を監視する体制を整えたという。火災発生時は、消防士や消防車両などの関連リソースが火災現場からどれだけ離れているかといった情報は特に重要になる。INFOCAは「消防士と彼らが利用するリソースを全てリアルタイムで追跡する機能は、火災の管理において最重要なポイントだ」と述べている。

重量約142g、リチウム乾電池4本で動き、どこにでも持ち運べるSPOT Gen4。ワンボタンで自身の位置情報を送信するチェクイン機能や緊急時のS.O.S機能を標準で備える

 以上、携帯電話の圏外エリアで働く従業員の安全確保にGlobalstar衛星IoTソリューションを活用する海外の先進事例を紹介してきた。日本においても、雇用不足の解消や企業の価値向上を目的として、従業員の労働環境に配慮した「ウェルビーイング」という考え方が浸透しつつある。従業員の安全確保が企業の責務であることは言うまでもないが、危険な地域で労働に従事する単独作業員を守るために、Globalstar衛星IoTソリューションの提供価値は今後ますます大きくなるはずだ。

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