BEV新興勢力 リヴィアンの電動ピックアップ、出荷開始! BEV新興勢力のクルマたち・1

Amazonが入れ込むスタートアップ

リヴィアンはいわゆるスタートアップ企業だが、フォードが出資し開発や製造設備などでいろいろと協力している。ただし、フォードはリヴィアンのスケートボードシャシーを使ってリンカーン・ブランドのSUVを発売する計画の中止をつい先日発表した。何があったのだろうか。VW(フォルクスワーゲン)との連携と自前のBEVプラットフォームがあれば新興勢力に頼る必要はないという判断だろうか。BEVスタートアップの事業はめまぐるしく動き、株価も動く。そんな一例である。

リヴィアンは2009年に設立された。もっとも有名な出来事は、2019年にIT(情報通信)大手のアマゾンからデリバリーバン(配送用バン)10万台を受注したことだ。そして、アマゾンはリヴィアンの上場前、2021年9月の段階で優先株を含む未公開株38億ドル分を保有していることが明らかになった。また、アマゾン創業者のジェフ・ベゾス氏が始めた航空宇宙事業・ブルーオリジンがリヴィアン製PUTを有人宇宙飛行のクルー送迎に使っていることが動画で明らかになった。

アマゾンからの大量受注でリヴィアンは資金調達がやりやすくなった。上場すれば株価にも期待できるようになり、事実、そうなった。大量発注と未公開株の買い付けという組み合わせが、アマゾンにとってはリターンを見込める投資だったのだろうか。「リヴィアンの事業はウチが保証する」と言っているようなものだ。さらに、11月に入ってアマゾンはリヴィアン株を買い増した。買い増しが株価を引き上げ、たった数日でアマゾンが所有するリヴィアン株は合計150億円以上も資産価値が高まった。こういう取引はIT系企業の間では珍しくない。

リヴィアンのPUT「R1T」【写真1】は、通常のICE(内燃エンジン)搭載車なら2万ドル台で買えるサイズだ。このザイズのPUTに7万ドルを払える消費者はそれほど多くはない。とは言え、いままでのPUTにない機能、たとえば【写真2】のようなキャビン後方と荷台との間に備えられた車幅貫通式の収納スペースは目新しい。この構想は日産が1990年代に発表したコンセプトモデル「SUT(スポーツ・ユーティリティ・トラック)」に見られたが、なかなか実現しなかった。この収納スペースの後方、荷台の下にスペアタイヤが収容される【写真3】。つまり、この部分にはバッテリーを積んでいない、ということだ。

工場内の様子を見ると、バッテリーパックを乗せたジグがあった【写真4】。まだLiB(リチウムイオンバッテリー)は搭載されていない。ジグの形状から想像するに、ジグに据え付けられているバッテリーパックよりもやや長いタイプのバッテリーパックがあるのだろうか。黒いバッテリーパック本体の周囲に打たれた抵抗スポット溶接の形からは、このパックは鉄(鋼板)製と想像する。

インテリアは「BEVこそ新しい乗り物です」を演出する方法として、実体メーターではないディスプレイ式のメーターパネルと、あらゆる機能の操作を集中させたタッチスクリーン式のディスプレイ、それと木目調のトリムで構成されている【写真5】。タッチスクリーンはタブレット端末のようなものであり、新しそうに見えるし表示の自由度は極めて高い。しかし、走行中の操作はつねに「階層を呼び出しながら」の操作になり、ドライバーは目で確認しながら指先を特定の場所に誘導するという動作を強いられる。

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実体スイッチの場合は、指先の感触で確認するブラインドタッチが可能だが、タッチスクリーンだとそれができない。ただし、この手のディスプレイは、実体スイッチを並べるよりもはるかに安上がりだ。ちなみにテスラは、ドライバーのディスプレイ操作が一定回数以上になると作動しなくなるという欠陥をNHTSA(国家高速道路安全局)から指摘され、リコール勧告まで行なわれた。普通の自動車メーカーなら至極当たり前に行なう車載装置としての耐久試験やクリアすべき設計要件を、BEV専業のスタートアップ勢は果たして満たしているだろうか。

木目調パネルは、この程度のものならプリントでできる。薄くスライスした本物の突き板を使っているのか、あるいはプリントなのかは不明だが、全体的にはすっきりとした好感の持てるスタイリング(デザイン)だ。欧州風でもアメリカ車的でもなく、親しみやすい家具調とも言える。ただしメーターバイザーがない。太陽光線の入射角によっては表示が見にくくなるのでは、とも思う。普通の自動車メーカーはメーター視認性テストを必ず行なう。現在では、フランスの旧オプティスが開発したような視認性シミュレーションソフトがあり、設計段階でかなり追い込めるが、最後は実車での走行実験で詰める。果たしてこのコクピットはどうなのだろう。

この「R1T」と同じプラットフォームからSUV「R1S」【写真6】が作られる。ボディのシルエットは同じで、後部ドアから後方が荷台になっているか、車室になっているか、だけの違いだ。ボディ側面のインナーパネルは一体で作られるが、この方法は一般的であり、べつに目新しくはない【写真7】。自動車工場を見たことのない人は「スゴい!」と驚くかもしれないが、ボディサイドコンストラクション(側面)一体成形はいまや当たり前である。リヴィアンの側面パネルは、見たところ差厚鋼板ではなく、組成や厚みの異なる薄板をつなぎ合わせたテーラードブランクでもない。資料には素材も明記されていない。

ドアやダッシュボードなどのモジュール製造【写真8】と吊り下げ式ハンガーによるボディの工場内搬送、およびアンダーボディとアッパーボディの合体工程【写真9】も、いまの自動車工場ではごく一般的だ。すべてロボットが行なう塗装工程【写真10】も同様に、ごく一般的。ホイールベース内の床下にバッテリーを敷き詰め、サスペンションおよび駆動系を一体化させたシャシーを作り、その上にいくつかのバリエーションのアッパーボディを載せるという設計も、ごく一般的なBEVであると同時に、通常のラダーフレーム式PUTとなんら変わらない。

リヴィアンが公表している工場の動画や資料を見ると、さすがに設備は新しいが、自動車工場としてはごく普通であり、凝った作り方をしているわけでもない。しかし、販売価格は7万ドルだ。やはり、いちばんの金食い虫はLiBなのだろうと想像する。ニッケル/マンガン/コバルトを使う、いわゆる三元系LiBと思われるが、調達先は韓国のサムスンSDIだけなのか、それとも2社購買なのかは不明だ。ちなみにテスラは「リヴィアンがテスラの従業員を引き抜き、技術情報を得ている」と提訴している。

リヴィアンが公開しているイリノイ州ブルーミントン・ノーマルにある工場のVTRは、筆者にとっては懐かしい光景だ。ここは三菱自動車とクライスラーが1986年に合弁で設立したDSM(ダイヤモンド・スター・モーターズ)の工場だった。筆者はこの工場を取材したことがある。1988年に年産24万台で稼働開始し、クライスラーがDSMから手を引いた1993年以降はMMMA(ミツビシ・モーター・マニュファクチャリング・オブ・アメリカ)の工場だったが、2016年5月に閉鎖された。これを買い取ったのがリヴィアンだった。

テスラはトヨタとGMの合弁工場だったMUMMI(ニュー・ユナイテッド・モーター・マニュファクチャリング)の工場をトヨタから格安(自動車工場建設と設備搬入の常識からいえばタダ同然)で譲り受け、量産工場を手に入れた。リヴィアンも同じだ。しかも、両方とも日米の自動車メーカーが共同で設立した工場であるという点が因縁めいている。

ただ、テスラは暖かいカリフォルニア州の工場を買ったが、リヴィアンは寒いイリノイ州の工場を買った。かつてアメリカの自動車産業はミシガン州デトロイトを中心に、隣接するイリノイ州までのあたり、カナダ国境に近い北部が中心だったが、いまでは南のテキサス州方面に工場が移動している。「暖房費を払わないで済む」「労働コストも安い」という理由だ。

リヴィアンの工場の中は、三菱時代にはなかった設備が入っている。しかし、天井や柱は三菱時代のままだ。いまどきの工場らしく、最終組み立て段階でクルマの高さを自由に変えられる台車を持った「動く床」が導入されている【写真11】。組み立てる車両の周囲に作業スペースとしての床があり、この床ごと一緒に動く。マツダも最近、このような設備を防府工場に導入した。

筆者は、まだリヴィアンの実物を見ていない。仲の良いアメリカ在住のジャーナリスト諸氏は「見ただけでまだ乗っていない」というが、見栄え品質は「普通だ」という。気になるのはフォードの動向で、以前はリヴィアンからBEVシャシーを調達すると言っていたが、つい先日、その計画を破棄したことが発表された。テスラによるリヴィアン提訴や、少々怪しいアマゾンとの関係など、老舗の名門企業フォードとしては「とりあえず距離を置く」との判断なのだろうか。

果たしてリヴィアン「R1T」の初期受注はどの程度だろうか。ネット予約が集まっているとの話だが、実際に買う人はどれくらいいるだろうか。それと初期トラブルだ。出始めの商品は小さな不具合に悩まされることが多いが、そこはどうだろうか。7万ドルの買い物は、けして安くない。

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