【鼎談】新型コロナ流行から2年、パンデミックは中国人を変えた──のか

<世界最大の人口を有しながら、感染者数を10万人と小規模に抑え込んできた中国の「成功」は、共産党の強権支配だからできるハイテク監視がなせる業だと日本では考えられているが、果たしてそうか。高口康太×山形浩生×高須正和の3氏による鼎談>

中国のコロナ対策はハイテクより「社区」がカギ(2020年、武漢)Aly Song-REUTERS

【鼎談】新型コロナ流行から2年、パンデミックは中国人を変えた──のか

ジャーナリストの高口康太氏が上梓した新刊『中国「コロナ封じ」の虚実――デジタル監視は14億人を統制できるか』(中公新書ラクレ)は、新型コロナウイルスの最初の流行地でありながら封じ込めに成功した中国について、社会体制、デジタル化、デマ対策など多方面から分析した本だ。【写真を見る】山で凍死した台湾のビキニ・ハイカー「専制政治が築いたハイテク監視社会でコロナを封じ込めた」と、日本で広く認識されている「中国の真実」は真実なのか。深センの発展を通じて中国の社会や技術の変化を観察し続ける翻訳家の山形浩生氏、中国のメイカームーブメント(誰でもお金をかけず最新の技術を使ってものづくりに挑戦できるようにする活動)を支援する高須正和氏が、本書を読んで高口氏と鼎談した。以下、その一部を紹介する。◇ ◇ ◇山形浩生:拝読してまず一番面白かったのが、第1章で描かれている、中国のコロナ対策と監視社会についてです。「中国はインターネットを活用した監視社会を構築していて、さらに専制主義によって人々の動きはコントロールされている。だからコロナも封じ込められるのだ」というのが、日本における一般的な中国理解ではないでしょうか。ところが、本書ではそんな安易なものではないと詳細に解説している。かつて日本にあったような隣組や江戸時代の五人組のようなコミュニティー管理の手法があり、さらに人々を監視するために膨大な数の監視員が動員されることによってコロナ対応が可能になったんだというわけです。しかも、そうしたコミュニティー管理と動員の仕組みはもともと中国社会に用意されていたものではなく、新型コロナウイルスの流行後にリアルタイムで整備されていったものであり、いわば社会の構造が臨機応変に組み替わることによって実現したとのことです。「専制主義では人民は簡単に統制できる」と安易に言われがちですが、人間ってそんな簡単に統制できるものではない。言うことを聞かないわけです。じゃあ、どうやって言うことを聞かせていたのだろうという疑問について、その答えをきわめて具体的に描いている。高口康太:第4章で取りあげましたが、中国人作家の蒋方舟が「(コロナ対策に)人々がすんなりと従っていることに驚いた」と語っています。中国専門家の多くは同意するのではないでしょうか。「上に政策あれば下に対策あり」と表現される、政府の方針の裏をかくことに長けた中国人民が、社会生活に不便を強いる感染対策になぜあれほど従順に従ったのか、これは私にとっても衝撃でした。世間の同調圧力が強く皆がルールを守ると言われることが多い日本でも、繁華街の人出をどう削減するかや、リモートワークを呼びかけても応じない会社をどう変えるかという課題に悩んでいたわけですが、ルールを守らないことに定評がある中国社会でどうやったのか。この疑問が本書の根底にあります。高須正和:社会が組み替えられているというのはまさにそのとおりです。私は中国に拠点を置いて3年になりますが、本書でコロナ対策の主役として描かれている「社区」(都市の基層自治体)について、コロナまではほとんど意識したことはなかった。それが社区の出入り口に検問ができ、市外に出張したならPCR検査を受けろなどと、細かく連絡してくるようになりました。日本では中国のコロナ対策としてドローンや監視カメラの活用を紹介されることが多いようですが、ドローンで警告されても監視カメラがついていてもルールを守らないやつは守らないわけで、人間が監視しないと止めきれない。検問を作って、交代要員を含めて監視員を貼り付けてといったロジスティクスが課題になるわけですが、社区がどういう仕組みでこの体制を築いたかを解説したのは非常に興味深いポイントです。

次ページは:<「世の中は首尾一貫していない」という前提>最終更新:ニューズウィーク日本版

カテゴリー