難しい課題が付加価値の高いものづくりにつながる――株式会社JMC

次代を担う成長企業の経営者は、ピンチとチャンスが混在する大変化時代のどこにビジネスチャンスを見出し、どのように立ち向かってきたのか。本特集ではZUU online総編集長・冨田和成が、成長企業経営者と対談を行い、同じ経営者としての視点から企業の経営スタンス、魅力や成長要因に迫る特別対談をお届けする。

今回お招きしたのは、株式会社JMC代表取締役社長兼CEOの渡邊大知氏。早くから3Dプリンター事業に取り組み始め、現在は鋳造、産業用CTの3本柱で事業を展開している。ここでは渡邊氏に同社のコアコンピタンスや思い描く未来構想をお伺いした。(取材・執筆・構成=大正谷成晴)

(画像=株式会社JMC)渡邊 大知(わたなべ・だいち) 株式会社JMC代表取締役社長兼CEO1974年山梨県生まれ 現在46歳1992年甲府第一高等学校卒業1993年プロボクシング デビュー1999年プロボクシング引退、 当社入社2004年当社代表取締役就任2014年「新ものづくり研究会」委員 総理官邸「経済の好循環懇親会」出席2020年中小企業庁「知的財産取引検討会」委員冨田 和成(とみた・かずまさ)株式会社ZUU代表取締役神奈川県出身。一橋大学経済学部卒業。大学在学中にIT分野で起業。2006年 野村證券株式会社に入社。国内外の上場企業オーナーや上場予備軍から中小企業オーナーとともに、上場後のエクイティストーリー戦略から上場準備・事業承継案件を多数手掛ける。2013年4月 株式会社ZUUを設立、代表取締役に就任。複数のテクノロジー企業アワードにおいて上位入賞を果たし、会社設立から5年後の2018年6月に東京証券取引所マザーズへ上場。現在は、プレファイナンスの相談や、上場経営者のエクイティストーリーの構築、個人・法人のファイナンス戦略の助言も多数行う。

高度な技術を導入するだけではなく、使いこなすための提案力や並走に強み

冨田:本日はよろしくお願いいたします。聞くところによると、JMC社はもともと、今とは異なる事業を展開していたそうですね。まずは、その辺りからお聞かせください。

渡邊:当社は私の父が創業して保険業を営んでいましたが、1999年に私が入社したタイミングで光造形機を導入し、3Dプリンターの出力事業を始めました。その後、2004年に代表取締役に就任し、06年には試作品の受託範囲の拡大を目的に鋳造事業を行う有限会社エス・ケー・イーと合弁して砂型鋳造法による鋳造事業も始め、17年には鋳造事業の中で行われた産業用CTによる検査工程を切り出し、CT事業としてサービス化しました。要するに、吸収した会社の事業が主力となっていて、これは大きな転換点だったと思います。

冨田:3Dプリンターに関しては、2013年にオバマ元大統領が国の施政方針を示す一般教書演説で言及したこともあり、大きく注目されました。

渡邊:我々が1999年に参入したように、3Dプリンター自体は前々からあり、オバマ元大統領が口にしたことで、第3次ブームが起きたのです。ですから、我々関係者からすると「いまさら?」と思う節はあったのですが、あのブームにより多くの人が認知するようになったのは大きく、事業にも変化をもたらしました。これまでに培った3Dデータに関する技術やノウハウは、当社の事業を支える基盤であり財産になっています。一方、一般的な市場では期待値が大きかった分、あまり活躍の場が少なく、今は調整局面を迎えているようです。

冨田:米国の3D Systems社が3Dプリンターを発売したのが1987年で、ブームのたびに日本からも多くの人が同社に投資したようです。先ほどの第3次ブーム前は5ドル以下だった同社の株価は2014年に96ドルまで高騰しましたが、その終焉により一時は再び10ドルを割ったこともあります。ただ面白いもので、ガートナーの「ハイプ・サイクル」のように、新たなテクノロジーは黎明期から期待値が高まり、過度な期待を経て幻滅期を迎え、啓発期、生産性の安定期となりますが、実用段階になると再び期待値は上がります。実際、3D System社の株価も一時の低迷から脱しました。AIも何度もブームがあり似たような状況ですが、御社の場合はかなり早くから先端技術に着目し、紆余曲折を経ながらも競争優位性を培ってきたということでしょうか。

渡邊:3Dプリンター出力事業と鋳造事業、CT事業はどう兼ね合うのかというと、結局のところ3Dプリンターだけでは、どうにもならない部分があるということです。優れていることは確かですが、どう使っていいかわからないなど、欠点もあります。そうすると従来工法との対比や、実用に対する提案力が求められます。

私の周りでも、いざ3Dプリンターを買ったものの持て余している製造業の方はいて、持ってから実用するまでに谷があります。我々のようにいろいろな工法を持っていると、その間と間のニーズが見えて話は広がっていくのです。

例えば三次元データはどう作るかにはCTが有効だったり、金属にするには何がいいかというと鋳造であったり、それぞれの技術を柔軟に組み合わせていくことで、お客さまの幅広いオーダーにお応えするとともに、既存のものづくりでできなかった新たな領域への技術応用の道を切り拓くことができます。伝統的な鋳造技術と先進の3Dプリント技術、産業用CTによるデータ分析を使い分けることで「試作」「製造」「品質向上」といった工程をハイレベルで実現することができるわけです。

また、当社では心臓カテーテルに携わる医師やデバイスメーカー向けのトレーニング/検証システムの「HEARTROID(ハートロイド)」といった、3Dプリンターを利用したプロダクトがありますが、目に見える形で示すことで、要素技術が3Dプリンターである訴求になっています。

冨田:使いこなせていない技術があり、何かしらの形に生み出せると提案することできるのが、御社の優位性というわけですね。

難しい課題が付加価値の高いものづくりにつながる――株式会社JMC

渡邊:そのとおりで、3Dプリンターと現実をアジャストさせる部分が強みだと捉えています。3Dプリンターは世の中で代替工法のイメージもありますが、従来の製品を作るとコストが跳ね上がることもあります。そういったベクトルではなく、我々が訴求するのは3Dプリンターならではの領域です。多くの方も3Dプリンターでしかできないことをイメージしますが一歩を踏み出すことができず、そのお手伝いであったり、お客さまのニーズや課題に並走したりするのが、当社の役割だと思います。

冨田:当社は複数の金融メディアを展開していて、月間で1900万人の方にアクセスしていただいています。これは裏を返すと、金融に対する1900万人分の興味関心データが集まることを意味し、我々はたまったデータを解析したり、スコアリングしたりして活用しようとしています。どう活用しようとアイデアが湧けば湧くほど最終的には顧客価値になり、顧客価値になるということは事業の拡大にもつながります。片や、データはあっても活用の方法を見出すことができない企業もあり、今の渡邊社長のお話はこういう状況に近しいと思いました。素晴らしい技術があっても、どう組み合わせたら価値を見出すことができるのかわからないからこそ、知見のある会社が間に入る必要があり、それがJMC社だということですね。

渡邊:IT関連の方たちはデータ採取に長けていますが、うまく活用できる会社とそうでない会社があるのはデータの量だけではなく、さばき方だったりします。3Dプリンターも同様で、1つ間違えると装置産業的な話になりがちです。そうならないために、高い技術力は品質、提案力を持つこと求められます。

短納期・高品質だから付加価値が高い、目指すのは製造業のコンビニエンスストア

冨田:渡邊社長はあるインタビューで、「製造業のコンビニエンスストアを目指す」とおっしゃっていました。

渡邊:私がよく挙げるのは、ある目的地に行く場合、200円~300円払ってバスでゆっくり目指す方法もあれば、急ぐなら1000円~2000円払ってでもタクシーに乗りませんか、という例え話です。製造業も同じで、高いお金を支払うなら短納期にも対応するという可能性を示したかったのです。今までの製造業は工数が延びるほどビジネスが大きくなり、見積もりも高くなる傾向にあり、時短の概念が取り入れられていません。むしろ納期が早いことは安いといった話になっています。ところが、寝食を惜しんだり全自動化していたり、いろいろな価値が裏にあるからこそ、短納期は実現しているはずで、そこを考えないといけません。

私はアルバイトをしていたのでよく例えますが、コンビニエンスストアが安売りしないで定価販売するのは、24時間営業や温度管理といったクオリティが立証されているからです。その価値を認めているから、消費者は足を運びます。ならば、私たちが急ぎのお客さまに定価で販売する姿勢を保つのも、同様であっていいはずです。バスとタクシーの対比にしても、「早くて高い」ではなく、「早いから高い」のであり、「早いから安い」というのは、明らかに矛盾しています。私はもともと製造業出身ではないからこそ、この点はリアルに訴えています。

冨田:コンビニエンスストアの話はそのとおりで、営業時間やクオリティが担保されていて、立地のよさも挙げられます。消費者が便利に利用できるようにしている分、事業者はアクセスしやすい場所に店舗を持たないといけません。御社の場合も、提案力やアイデアだけではなく、時間や品質も価値として明示しているのですね。

渡邊:日本でものづくりをするのはナンセンスという説はいつでもありますが、そこには一言申し上げたい気持ちがあります。多くの製造業は今回の新型コロナウイルスのように、カントリーリスクが高まったり、サプライチェーンが崩れたりすると、国内で安定調達する揺り戻しがあり、再び安定すると海外に戻るなど、その繰り返しです。

対して我々は国内ですることに意味や意義があると考え、少量でクオリティの高い製品が身近で調達できることの存在感を前に出していきたいと思います。

冨田:御社には3本柱の事業があり、上場時は自動車のイメージが濃かったのが、今は医療の領域にも進出しました。こういった経営の意思決定の特徴やこだわりはいかがですか。

渡邊:ものづくりは装置産業になりがちですがそうではなく、ノウハウ産業にしたいと考え意思決定を下すように心掛けています。ノウハウ産業にすれば、日本人が手掛けるから高い・安いといった議論になりません。加えて、時間の価値も重視していて、ノウハウと掛け合わせて付加価値を創出したいと考えています。ならば、他よりも高品質なものを早く作り、よって高いという文脈が成り立つからです。

普遍的なことにも取り組むようにしています。鋳造品もそうですが、我々は素材を加工して製品にしていますが、これはメソポタミア文明の時代から脈々と続いていることです。絶対になくなることはなく、その中で今風の価値を作ることが肝要になります。医療もそうで、心臓に対する悩みは世界共通でなくならないからこそ、ニーズが途切れることはありません。お金で一蹴されるようなビジネスは生き残ることができず、エッジを効かせていきたいと思います。

冨田:これだけの技術力とノウハウがあれば、周辺にヒットしたり、テーマがあると飛びつきたくなったりますが、あえて選ばない信念を感じます。

渡邊:トレンドに手を出すと短期な売り上げになっても、継続性があるかどうかは別の話しです。たまたま当たっただけでは、自社で優位性を伝えたり、言語化できたりするか不安も付きまといます。それよりは、腰を据えてやったほうが、目標には早くたどり着くはずです。

冨田:最後に、御社の未来構想をお聞かせください。

渡邊:難しいことが好きな社風は昔から変わらず、今後もそれは変わりません。一方、上場時は自動車、何年かするとEVの色合いが濃くなり、中には「コロコロ変わる」と指摘する方もいます。ですが、世の中は変わり続けるのですから、変化に対応するのは当たり前のことです。鋳造をはじめコア技術にはこだわりますが、幅広く産業と向き合うのが目指す姿であり、向かう市場に対してこだわりを合わせていきたいと考えています。これからも難解な課題にチャレンジし、それを価値にしていきたいですね。

冨田:近年はファクトリーオートメーションなど、リアルな領域にDXの波が押し寄せ始めています。御社は3Dプリンターから始まり、コア技術を活用しソリューションを提供していますから、ITやDXのバブルがこれから本格的に起きても、その間に入ることができそうです。テクノロジーを掛け算して価値を生み出せる会社がメインプレイヤーになるなか、御社はど真ん中になると確信しました。本日はありがとうございました。

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