経済・IT カローラクロス対ヴェゼル、最新SUVを徹底比較

熾烈化するSUV市場にトヨタが導入した新型車「カローラクロス」が大きな注目を浴びている。同社のロングセラー「カローラ」シリーズのSUV版として登場した同モデルは、2020年より海外で先行販売されているモデルの国内仕様版で、コンパクトなボディサイズながら高い居住性や実用性を持ち、クラストップレベルの26.2km/Lという燃費性能などが話題だ。

そのライバル車といえば、やはりホンダが2021年4月に発売した「ヴェゼル」だろう。コンパクトSUVというジャンルを確立した立役者ともいえる同モデルの2代目は、独自の2モーター式ハイブリッドシステム「e:HEV」の採用による優れた燃費性能や、同じくクラストップ級といえる車内の広さや使い勝手のよさが人気だ。

ここでは、これら2モデルの特徴を比較することで、それぞれの商品性や優位性などを検証してみる。

カローラクロスは、前述のとおり、1966年に発売されたセダンタイプの初代「カローラ」を源流とし、2021年で55周年を迎えるロングセラー「カローラシリーズ」のSUV版だ。

現行モデルのカローラツーリング(写真:トヨタ自動車)

時代やユーザーのニーズに合わせて多様なボディタイプをラインナップしてきた同シリーズだが、12代目となる現行モデルでは、2018年にハッチバックの「カローラスポーツ」を発売。2019年には4ドアセダンの「カローラ」とステーションワゴンの「カローラツーリング」も追加する。また、先代モデルをベースとするセダンタイプの「カローラアクシオ」やステーションワゴンの「カローラフィールダー」も継続販売する。なお、12代目はいずれも3ナンバーサイズに大型化されたが、先代モデルがベースのアクシオやフィールダーは5ナンバーサイズを継続している。

カローラクロスのスタイリング(写真:トヨタ自動車)

従来あるハッチバック、セダン、ワゴンに続き、現行型カローラ4番目のボディタイプとして、世界的に好調なSUVスタイルを導入した形となるカローラクロス。トヨタの国内向けSUVラインナップには、大型の「ランドクルーザー」シリーズ、ミドルサイズの「ハリアー」「RAV4」、コンパクトな車格の「ヤリスクロス」「ライズ」といった充実のラインナップをすでに備える。そこにさらに投入したカローラクロスは、ミドルとコンパクトの間を埋める車格だ。同様のサイズには「C-HR」もあるが、2016年のデビューから年月が経過していることもあり、近年の新車販売台数はあまり芳しくない。また、C-HRは都会的なスペシャリティカー的要素が強いモデルだが、昨今のアウトドアブームにマッチしたスタイルや荷物の積載性など、より高い実用性を求めるニーズも増えてきた。そういった時代のニーズにマッチさせたモデルが、カローラクロスだといえよう。

新型ヴェゼルのスタイリング(写真:本田技研工業)

一方のヴェゼルは、初代モデルが2013年に登場した。現在も人気が続くコンパクトSUVの先駆者といえる同モデルは、累計販売台数で約45万台以上、過去4度のSUV新車販売台数1位を獲得するなど、数々の輝かしい記録を打ち立てた大ヒットモデルだ。

その後継となる現行モデルは、約8年ぶりのフルモデルチェンジを敢行して登場した。先代からのクーペ的なスタイルを継承しながらも、室内の居住性や使い勝手の良さを向上。独自の2モーター式ハイブリッドシステム「e:HEV」を搭載したハイブリッド車を用意するなどで、高い燃費性能も追求したモデルだ。

カローラクロスの走行イメージ(写真:トヨタ自動車)

カローラクロスは、SUVらしいダイナミックな外観に仕上げているのが特徴だ。ボディのアッパー部はガラス面やフロント・リアのランプに伸びやかなデザインを施す一方、前後フェンダー部を張り出させたワイド感あるボディラインを採用する。とくにフロントフェイスは印象的で、バンパー下部に大型グリルを装備するトヨタ独特の「キーンルック」を採用し、迫力あるフォルムを生む。

なお、日本に先駆けてタイ、台湾、北米などで発売された海外仕様では、フロントグリルはさらに大型のものが装備されており、よりアウトドアに似合うワイルドな印象を持つ。対する日本仕様は、ほかのカローラシリーズに近い顔付きにすることで、都会的な味付けも加味した。また、フロントのエンブレムも海外仕様が「トヨタ」マークなのに対し、日本仕様はカローラブランドを象徴する「C」マークとし、ヘッドライトにも日本独自のデザインを採用する。

ヴェゼルe:HEV Z(FF)アーバンスタイルの外観(写真:本田技研工業)

一方のヴェゼルは、流麗でクーペ的なフォルムを持たせることで、より洗練された印象の外観デザインを採用する。また、全席で爽快な視界を生み出す内装の造形を意識した「スリーク&ロングキャビン(滑らかで長い乗車スペースといった意)」を採用する。フェイスデザインには、フィンのような形状や外装色と同色にすることでボディとの一体感を高めたフロントグリル、よりシャープになったヘッドライト形状などにより、スマートかつ個性的な表情を持たせている。また、車体のサイド部は、ヘッドライトからリアコンビネーションランプに至るまで、水平基調のデザインを取り入れ、リアゲートの角度を寝かせるなどで、全体的にスマートなイメージに仕上げている。

カローラクロスのサイドビュー(写真:トヨタ自動車)

外観のデザインでは、どちらかというとワイルドなイメージのカローラクロスに対し、ヴェゼルはより都会的でスマートなデザインを採用しているといえる。こうしたデザインの違いは、ユーザーの好みがわかれるところだが、個人的には、近年ブームとなっているアウトドアのテイストがより強いのは、カローラクロスだと考える。外観だけでなく、後述する室内の広さや積載性など、高い実用性を備える点からも、同モデルは車中泊やキャンプといった「外遊び」のニーズによりマッチしていると思う。

ヴェゼルのサイドビュー(写真:本田技研工業)

ちなみに両車の車体サイズは、カローラクロスが全長4490mm×全幅1825m×全高1620mm。対するヴェゼルは、全長4330mm×全幅1790mm×全高1580~1590mm。同じコンパクトカーでも、カローラクロスはやや大きめの部類、欧州などの分類でいうCセグメントに属するのに対し、ヴェゼルはそれよりも小さいBセグメントに属する。そう考えると、ヴェゼルの直接的ライバルは、同じセグメントの「ヤリスクロス」という見方もある。だが、ヤリスクロスでは、ヴェゼルのもつ居住性にはかなわない。この点もカローラクロスとヴェゼルが競合関係にあるゆえんだ。

ともあれ、車格的にはカローラクロスのほうが大きく、ホイールベースも2640mmと、2610mmのヴェゼルより長い。ところが最小回転半径では、カローラクロスが5.2mなのに対し、ヴェゼルは5.3~5.5m。あくまでカタログ数値上の差ではあるが、市街地などの狭い路地や駐車場などで、カローラクロスは小回りがかなり利くことは間違いないだろう。日常の使い勝手がいいことも、同モデルが持つ優位点のひとつだ。

カローラクロスとヴェゼルは、いずれもハイブリッド車とガソリン車を用意する。まず、カローラクロスは、1.8リッター直列4気筒エンジンを搭載するガソリン車と、同エンジンにモーターを組み合わせたハイブリッド車を設定する。駆動方式は2WD(FF)と電気式4WD(E-Four)の2タイプで、ガソリン車に4WDはない。ラインナップは、ハイブリッド車が2WD・4WDともに3グレード(G、S、Z)、ガソリン車には、それらにエントリーグレード(G“X”)を含めた全4グレードを用意する。

ヴェゼルのe:HEV+リアルタイムAWDのシャーシイメージ図(写真:本田技研工業)

一方、ヴェゼルのパワートレインは、1.5リッター直列4気筒エンジンのガソリン車と、同じエンジンにモーターを組み合わせたハイブリッド車を設定。駆動方式はガソリン・ハイブリッドの両方に2WDと4WD(一部をグレードを除く)を用意する。ラインナップの中心はハイブリッド車で、全3グレード(e:HEV X、e:HEV Z、e:HEV PLaY)を用意。ガソリン車は、先代の5グレードに対し1グレード(G)のみの設定となった。

両車は、搭載するエンジンの排気量が違うだけでなく、とくにハイブリッドのシステムなどに違いがある。カローラクロスのハイブリッド車は、シリーズ・パラレルという方式を採用する。発進時や低速走行時などはエンジンを停止し電気モーターのみで走行、車速が上がり通常走行する際は主にエンジンを使用する。また、急加速時などアクセルを強く踏み込んだときや高速道路などを走行する際は、モーターの動力が必要に応じてエンジンをアシストするシステムだ。

対するヴェゼルは、走行用と充電用といった2種類のモーターを搭載する独自の「e:HEV」システムを採用する。発進時や市街地の低速走行ではエンジンを停止してモーターのみで駆動するEV走行を行う。また、速度が上がるとエンジンが発電し、より多くの電力を供給しながら走行用モーターで駆動するほか、加速時などは発電用モーターも電力を供給するハイブリッドモードに切り替わる。さらに高速クルーズ時など、エンジンの得意領域ではエンジンのみを使ったエンジンモードを用いる。

カローラクロスのハイブリッドシステムイメージ図(写真:トヨタ自動車)

両モデルのハイブリッド車は、いずれも高い燃費性能を発揮するが、カローラクロスのほうが若干いい。WLTCモード総合の燃費では、カローラクロスが2WD車26.2km/L、4WD車24.2km/L。対するヴェゼルは、2WD車24.8~25.0km/L、4WD車22.0km/Lだ。これらの差は、あくまでカタログ数値上の比較のため、実際は走行状況などによって変わってくる。実燃費において、両車に圧倒的な差が生じることはないだろう。

だが、カローラクロスは、車格がより大きく、車両重量もハイブリッド車で1380~1510kgと、ヴェゼルe:HEV車の1350~1400kgより重い。最大で100kg以上の差だ。それにもかかわらず、燃費性能がヴェゼルと互角かそれ以上というのは、さすがトヨタだといわざるをえない。1997年の初代「プリウス」以来、長年熟成されてきたトヨタのハイブリッド技術に一日の長があることは確かだ。

ヴェゼルの1.5Lエンジン(写真:本田技研工業)

対するガソリン車の燃費では、WLTCモード総合でカローラクロスが14.4km/Lなのに対し、15.6~17.0km/Lを発揮するヴェゼルのほうがいい。ガソリン車における車両重量の差は、ハイブリッド車ほどではなく、カローラクロスが1330~1350kgなのに対し、ヴェゼルは1250~1330kg。20~80kgほどヴェゼルのほうが軽いが、それに加え、ヴェゼルの1.5Lエンジン自体の燃費性能がかなりいいのだろう。

ただし、カローラクロスのエンジンは排気量が1.8L。ヴェゼルのガソリン車より大きく、パワーも最高出力140ps/最大トルク17.3kgf-mを発揮する。118ps/14.5kgf-mのヴェゼルと比べ、走りに余裕があることがうかがえる。市街地などの低・中速走行時であれば差はさほどでもないだろうが、とくに山道や高速道路などでは、より快適に走ることができるといえよう。

カローラクロスのインテリア(写真:トヨタ自動車)

経済・IT カローラクロス対ヴェゼル、最新SUVを徹底比較

カローラクロスの室内は、SUVらしい見晴らしのいい視界の高さを確保しつつ、ゆとりのある頭上空間を設けたことが特徴だ。どの席に座っても、街乗りからロングドライブまでさまざまなシーンでの快適性を実現する。また、インストルメントパネルからドアトリムにかけて連続性のあるデザインを採用することで、広がりのある室内空間を演出。フロントシートには、スリムな背面部と高いホールド性を両立したスポーティなシート(G“X”グレードを除く全車に標準装備)を装備する。さらに、室内照明にすべてLEDを採用するなどで、カジュアルな雰囲気の中に、上質かつ洗練された質感も加味する。

ヴェゼルe:HEV プレイのインテリア(写真:本田技研工業)

対するヴェゼルの室内は、全体の印象として、しっかり芯の通った「かたまり感」のあるソリッドなフォルムを重視することで、SUVの力強さを表現する。また、身体に触れるような近い部位には、柔らかな触感と形状のパッドをあしらうことで、強さと優しさを兼ね備えた空間をデザインしている。

運転席では、運転時の視界周辺の見やすい位置に、メーターやディスプレイオーディオなどをレイアウト。スイッチ類は着座姿勢を崩さず自然に手が届く位置に配置することで、視線や動作の流れを断ち切らない、ストレスフリーでスムーズな運転動作を可能とする。なお、運転席からの視界は、カローラクロスはピラーが寝ていることもあり、ヴェゼルと比べると若干ながら狭さを感じる。開放感ではヴェゼルのほうが上だ。ただし、両車ともにアイポイントが高いことと、ピラーが細めであるため、前方の見やすさは同等だ。

カローラクロスの車内空間(写真:トヨタ自動車)

両モデルの室内サイズは、カローラクロスが長さ1805mm×幅1505mm×高さ1265mm。対するヴェゼルは、長さ2010mm×幅1445mm×高さ1225~1240mm。車格が大きいぶん、幅や高さではカローラクロスのほうに余裕があるが、長さはヴェゼルが勝る。これは、ヴェゼルの車体に、独自の「センタータンクレイアウト」を採用した効果だ。「フィット」や「N-BOX」などにも採用するこの方式は、燃料タンクを一般的な車体後部ではなく前席の床下に設置することで、車内や荷室の広さを実現するホンダの特許技術だ。

2代目ヴェゼルは、先代でも定評があった足元スペースを35mm延ばしている。これにより、後席の座り心地は、同サイズの「ヤリスクロス」や「キックス」などと比べて広く快適だ。だが、やはりカローラクロスは車格が大きいぶん、前述のとおり、幅や高さがあり、着座時の開放感では上だろう。加えて、カローラクロスの後席には、2段階のリクライニング機構を備えるが、ヴェゼルにはない。後席に座る際、よりリラックスした姿勢を取れるという点でも、カローラクロスに軍配が上がる。

荷室の広さにおいても、カローラクロスは5名乗車時で487Lというクラストップレベルの大容量を確保する。また、6:4分割式の後席は、背もたれを左右どちらか一方のみ前方へ倒すことで、後席に1~2名を乗せたままで長尺物を積むこともできる。さらに左右の背もたれをすべて前へ倒せば、1885mmの奥行のある広いラゲッジスペースとなり、大きな荷物を積むことも可能だ。

ヴェゼルのラゲージスペース(写真:本田技研工業)

対するヴェゼルの荷室容量は非公開だが、こちらもクラストップレベルの広さを誇る。後席に6:4分割式を採用し、どちらか一方の背もたれを前方へ倒すことで、後席に人を乗せた状態で長尺物を積むことができるのも同様だ。

ただし、後席の背もたれをすべて前へ倒した状態では、完全にフラットなスペースを作れるヴェゼルに優位点がある。カローラクロスは、同様の状態にしても座面と背もたれの厚みぶんで400mm弱の段差ができ、完全にフラットにはならない。さらにヴェゼルは、前席の背もたれも前方に倒せば長さ約1900mmを確保できるため、大人2名が車中泊を楽しむことも可能となる。

ヴェゼルの荷室空間イメージ図(写真:本田技研工業)

両車のこうした差は、前述したホンダの特許技術、センタータンクレイアウトに寄与するところが大きい。燃料タンクを前席下に配置することで、後席以降のフロア高を低くできる。これにより、後席の背もたれを畳んだ際に座面ごと下側へ移動させるスペースが生まれ、結果的に荷室をフラットにできるのだ。

カローラクロスも、2021年12月に発売が予定されているオプションの「ラゲージアクティブボックス」を使えば、荷室をフラットにすることは可能で、大人もゆったり橫になるスペースができる。価格も2万8050円と手頃ではあるが、わざわざオプションを購入しなくても、全グレードで荷室をフラットにできるヴェゼルのほうがよりリーズナブルだといえる。加えてヴェゼルは、後席の座面を背もたれ側に上げることができる「チップアップ機能」も備え、鉢植えなど背が高く、橫にできない荷物の積載にも対応する。シートアレンジの豊富さでは、ヴェゼルのほうが一枚上手だといえよう。

ちなみに両モデルには、スマートキーを携帯していれば、足をリアバンパー下にかざすと自動でテールゲートが開く機能も用意する(ヴェゼルはe:HEV Xを除くハイブリッド車に標準装備、カローラクロスは上級グレードZに標準装備、Sにオプション設定)。両手に荷物を持ったままでもテールゲートを開けることができるほか、どちらもユーザーが車両から離れることで自動的にゲートが閉まる予約機能も搭載する。

カローラクロスのパノラマルーフ(写真:トヨタ自動車)

両モデルには、室内を快適に過ごすための、使い勝手がいい装備が充実しているのも特徴だ。まず、ルーフの一部をガラス張りにすることで、オープンカーに乗るような開放感を演出するガラスルーフの「パノラマルーフ」。カローラクロスでは、前席から後席まで広がる一体式の大型タイプをZ・Sグレードにオプション設定する。また、電動サンシェードも装備するため、日差しのコントロールのための開閉が楽にできる。対するヴェゼルも、同じく「パノラマルーフ」という名称で装備し、ハイブリッド仕様のe:HEVプレイに標準設定する。前席と後席それぞれの上部ルーフにガラスを使った2分割式を採用し、サンシェードは脱着タイプだ。

ガラスルーフについては、カローラクロスの一体式とヴェゼルの2分割式では、好みがわかれるところだが、どちらも高い開放感を得られることは間違いない。だが、ヴェゼルのサンシェードは外しているときに荷室などに置く必要があるし、装着は手動で行わねばならない。その点、電動で開閉するカローラクロスのほうが、より使い勝手がいいといえる。

ヴェゼルのパノラマルーフイメージ図(写真:本田技研工業)

両モデルは、室内ユーテリティも高い。カローラクロスとヴェゼルは、ともにセンターコンソールやリヤセンターアームレスト、前後ドアポケットなどにドリンクを入れられるカップホルダーを装備。グローブボックスやセンターコンソールボックス、助手席シートバックポケットなど、小物が入れられる収納スペースも豊富だ。

また、スマートフォンなどの充電ができるUSB端子も、カローラクロスはセンターコンソールボックスの後部または内部(グレードで異なる)に装備。ヴェゼルでは、前席と後席の各2か所ずつ計4か所に設置する。さらに、いずれのモデルも、フロントコンソールトレイ内にスマホを置くだけで充電できるワイヤレス充電器を用意。カローラクロスは上級グレードのZにオプション、ヴェゼルはe:HEVプレイに標準装備し、ほかのグレードはオプションで設定する。

カローラクロスのアクセサリーコンセント(写真:トヨタ自動車)

このように、両車は高い実用性を誇るが、カローラクロスで特筆すべきは、ハイブリッド車にオプション設定している「アクセサリーコンセント(AC100V・1500W)」と「非常時給電モード」だ。これらは停電など非常時に役立つ装備で、車両駐車時に「非常時給電モード」にすると、電気ポットやドライヤーなどの家電製品を使用することができる。ヴェゼルにはこうした機能はなく、カローラクロスは「もしものときに頼れる」高い安心感も持つ。ちなみにトヨタは近年、多くのハイブリッド車に、車載バッテリーを非常用電源として活用する同様の機能を採用している。「災害に対する備え」といった、ハイブリッド車に対する新しい付加価値を提案している点も、カローラクロスに限らずトヨタ製ハイブリッド車の大きな特徴だといえる。

ほかにも両モデルは、最新の安全装備も万全だ。カローラクロスには「Toyota Safety Sense(トヨタセーフティセンス)」、ヴェゼルには「Honda SENSING(ホンダセンシング)」が全車に標準装備されている。いずれも衝突被害軽減ブレーキやペダル踏み間違い時加速抑制装置、高速道路などで車線をはみ出さないようステアリング操作を支援する機能など、今や新型車には「当たり前に搭載されている」といっても過言ではない数々の先進装備が満載だ。また、駐車時の運転支援でも、ナビのモニターで車両を真上からみるような映像を映し出す機能をいずれも備えるなど、両車の安全装備はほぼ互角だといえる。

カローラクロスの9インチディスプレイオーディオ(写真:トヨタ自動車)

さらに、スマートフォンなどとワイヤレスで接続できるディスプレイオーディオも、両モデルともに設定する。いずれも電話やメッセージ、音楽や動画の視聴、ナビゲーションなど、スマホ用アプリの機能を使うことが可能だ。最新のコネクテッド機能についても、スマホを使ってドアのロックを遠隔操作する機能や、広い駐車場で自車の場所を探す機能などを装備。さらにナビの地図を自動更新したり、事故など緊急時にオペレーターが対応し緊急車両などを手配したりする機能など、さまざまなサービスを享受できる点も同様だ(利用には、いずれも別途契約が必要)。

このように両車の装備はかなり拮抗しているが、価格面ではどうだろう。カローラクロスは、税込価格がハイブリッド車で259万円~319万9000円、ガソリン車は199万9000円~264万円。対するヴェゼルの税込価格は、ハイブリッド車が265万8700円~329万8900円、ガソリン車は227万9200円~249万9200円だ。

近年は、ガソリン車よりもハイブリッド車の販売比率が高いモデルも多い。カローラクロスとヴェゼルでも、それは同じだ。トヨタの某販売店によると、10月上旬時点で、カローラクロスの全受注数中、ハイブリッド車の割合は約7割にのぼるという。また、ヴェゼルも、ホンダの某販売店によれば、受注の約9割がハイブリッド車だ。中でもヴェゼルで最も売れ筋なのは、ハイブリッドの中級グレード「e:HEV Z」の2WD車で、税込価格289万8500円。カローラクロスで同様の中級グレードを比較すると、ハイブリッドの「HYBRID S」2WD車が税込価格275万円と15万円近く安い。また、ハイブリッドの上級グレードでも、ヴェゼルの「e:HEVプレイ」(2WDのみ)が329万8900円なのに対し、カローラクロスは「HYBRID Z」の2WDが299万円と、こちらは30万円以上の価格差がある。

こうして比較してみると、カローラクロスはヴェゼルよりも車格が大きいわりには、同じようなグレードの価格が安い。ただし、カローラクロスは前述したように、例えば荷室をフラットにできるラゲージアクティブボックスや、パノラマルーフなど、オプション設定の装備も多い。対して、ヴェゼルでは全車またはグレード別で標準装備されている機能も多いため、単純に各車の車体価格だけでは、どちらがより「お得か」は比較できないだろう。

カローラクロスの走行イメージ(写真:トヨタ自動車)

例えば、カローラクロスの場合、前述のパノラマルーフや、手を使わずにリアゲートを開けられる‪ハンズフリーパワーバックドア‬は、いずれもZとSにオプション設定されており、税込価格はどちらも11万円。両方を装備すると計22万円となる。一方、ヴェゼルでは、パノラマルーフはe:HEVプレイのみ装着できるが標準装備(他グレードは設定なし)、ハンズフリーのリアゲートもe:HEV Zとe:HEVプレイに標準で装備される。そう考えると、カローラクロスは、オプションを追加していけば、ヴェゼルとの価格差は意外に小さくなり、装備次第では価格があまり変わらなくなるケースも考えられる。

ただし、購入総額にさほど差がないのであれば、室内や荷室の広さなど高い実用性を持つカローラクロスにユーザーが流れる可能性は十分にありうる。また、ある程度高い年齢層には、歴史と信頼性を誇る「カローラ」シリーズに属するというブランド力も、大きな訴求ポイントになるだろう。

ヴェゼルの走行イメージ(写真:本田技研工業)

日本自動車販売協会連合会が発表している登録車の新車販売台数によると、現行のヴェゼルは、2021年4月の発売から同年9月までの期間で、つねに上位10位以内をキープし、6カ月で2万9346台(月平均4891台)を販売している。先代モデルほどの勢いはないが、堅実に売り上げを伸ばしてきているのは確かだ。今後、カローラクロスの登場で、ヴェゼルの売り上げにどのような影響がでるのかが注目される。

なお、SNSなどによれば、カローラクロスについては、8月末頃から受注が開始されており、すでに注文を入れたユーザーもかなりいるようだ。ただし、納期は9月末のオーダーで4~6カ月後、登録は早くても2022年1月以降になるようだ。とくにハイブリッド車の納期は長めで、すでに注文は入れたが納期が決まっていないというユーザーもいるという。納期が長くなっている要因には、東南アジアにおけるコロナウイルスの影響拡大などによる部品供給不足がある。発売されたばかりのカローラクロスに、これがどう影響するのかも気になるところだ。ただし、納期遅れはヴェゼルも同様なので、条件はほぼ五分といったところだろう。いずれにしろ、SUV市場の熾烈なシェア争いは、今後もしばらく続くことだけは確かだ。