NAパブリッシングから今冬発売予定となっているサイバーパンクホラー『Observer: System Redux』を一足先にプレイしました!
本作は、数々の受賞歴を誇る傑作ホラー『>Observer_』を次世代機向けにリマスターし、ストーリーを追加したもの。映画『ブレードランナー』などに出演した俳優のルトガー・ハウアーさんの最後の出演作であり、偉大な映画スターへのオマージュとなっています。
この記事では、サイバーパンクならではの世界観を生かした独特の恐怖感やその魅力を中心に、遊んでみた感想をお届けします。
まさに謎解きの遊園地! 調べる場所を限定されないからこそ味わえる“調査と推理”の魅力
物語の主役は、警察の特殊部隊“オブザーバー”の一員であるダニエル・ラザルスキ。彼は消息不明の息子からのメッセージを受け取り、クラクフという都市のスラムの一角へとたどり着きます。
息子が住んでいたと思われるアパートの一室には首のない死体があり、大きな事件が起こっていることは疑いない状況……! ここから息子の消息を知るため、そしてここで起こっている謎の事件の真相を掴むために調査をしていく、といった内容になっています。
本作では“息子の行方を捜す”といったような大きな目標は提示されるものの、細かいガイドは表示されません。目標地点のアイコンが見えたり、ミニマップに行き先までのガイドが表示されたりすることはなく、あくまで刑事らしく自分の目と足と感を使って情報を集め、答えに一歩一歩近づいていくのです。
昨今の親切なゲームに慣れ親しんでいた身としては面食らいましたが、ジャーナルに少しずつ増えていく情報や、やるべきことを眺めつつあれこれと考えるのは非常に楽しく、まるで自分が探偵になったかのような“捜査している感”を与えてくれます。
もちろん、有力な情報がホイホイ手に入るわけではありません。場合によっては、管理人室に忍び込んで情報を盗み見たり、ハッキングしてロックを解除したりと犯罪スレスレの行為が必要になることも……。
まぁこれでも刑事ですので、咎められても「捜査に協力しろ!」と言えば大抵まかり通ります。サイバーパンク世界の刑事って基本的に強権持ちですから。
現場検証では、2つのビジョンモードが捜査の肝です。さまざまな電子機器に反応する“電磁気ビジョン”と、血痕や有機物に反応する“生体ビジョン”という2種類の視覚を駆使して、現場の分析を行っていきます。
“電磁気ビジョン”を使用すると、パソコンや各種デバイスなど、現場に残っている気になる物品を詳細に分析できます。肉体の機械化や記憶のデータ化などが進んだサイバーパンク世界では、肉体にインプラントを埋め込んでいることも珍しくありません。死体を“電磁気ビジョン”で調べることで、重要な証拠が見つかることも。
“生体ビジョン”では、床に残された血痕や死体に付けられた傷跡から情報を得ることが可能です。血は見ればわかるのですが、場所によっては拭かれたであろう精液のあとなど、肉眼では確認できない痕跡を発見できることも。
なお、多くの戸棚を開け閉めできたり、パソコンでメールやファイルを確認することができるので、見るべきところは思ったより多い印象。すべてチェックしたところで有力な情報を得られるとは限らないのですが、逆にすみずみまで目を配らねばならないプレイ感が本作の楽しい要素のひとつと言えます。
だからこそ、手がかりを発見できたときの「これだ!」という感覚はとても気持ちが良く、捜査(ゲーム)を続けることのモチベーションにもなっています。
サイバーパンクの設定を生かした独自の“自我崩壊”体験!
“サイバーパンクホラー”と銘打たれる本作ですが、はたしてサイバーパンクにしてホラーとはどういったものなのか。正直自分はホラーが苦手なのでホラージャンルには詳しくはなく、本作のホラー要素に関しては実際に遊んでみるまでしっかりとはイメージできていませんでした。
感覚的には、人の狂気をにじませたサイコホラーに近いでしょうか。おもしろいのは、画面から感じる不気味さの軸は、ホラー的なものよりもサイバーパンクとしての演出によるものだったことです。
サイバーパンクと一口に言っても、その描写の仕方は作品によってさまざま。本作においては、1980年代の人が思い描いたレトロフューチャー的なサイバーパンク感を下敷きに、少し汚く、ディストピア的な世界として表現しています。
ひとつの絶望的な世界として描かれた風景はそれだけで少し奇妙であり、非現実的な怖さをもたらしています。
これだけであれば「ちょっと薄気味悪いな」程度で済むのですが、いざアパートで惨殺された死体が発見されてから、見る目が一変しました。
次々と犠牲者を見つけるにつれ、近くにいるであろう何らかの“危険な存在”を意識し始め、ドアを開ける際や背後を振り返る際などにも緊張が走るように……。
極めつけは、サイバーパンクという世界観を生かした演出でした。ダニエルは捜査の手段として、犠牲者のコネクターにコードを繋ぎ、その記憶を読み取ることが可能です。
ゲーム的には相手の記憶の中へと入り込み、その行動を追体験していくのですが、殺された人間の記憶データはところどころ破損しており、断片的にしか読み取ることができません。この記憶の世界がめちゃくちゃ不気味で怖い……!
ゲーム機やパソコンに触れている人であれば、いわゆる“バグった画面”と言い換えれば伝わりやすいでしょうか。ノイズが走ったり、写真などが連続表示されたり、欠損したりしている画面を見たとき、「うわっ、怖っ!」と思ったことはないでしょうか。その感覚に近いです。
それに加え、おそらく犠牲者たちは何らかの精神疾患を抱えていたり、薬の副作用が出ていたりで、とても正気だとは思えないビジョンを見ているであろうことが怖さに拍車をかけます。そして、犠牲者たちの記憶にアクセスすればするほど、彼らの記憶がダニエルのものと混ざり合い始めるのです。
現実世界で捜査中のはずが、突然廊下が無限に続くような錯覚を覚えたり、唐突に誰もいないはずの部屋から話しかけられたりと、物語が進むにつれて、死人の記憶が侵食してくるようになります。
結果、自分が今どちらにいるのかが判別できなくなっていく……。自分(ダニエル)が壊れていく過程をまざまざと見せられているような恐怖感を体験するはず。
一応、正体不明の敵も存在し、それから隠れたり逃げたりといったシチュエーションも登場しますが、本作における恐怖の本質はそこではありません。断片化して“バグった”他者の記憶と、それに侵食される恐怖。そもそものディストピア世界としての不気味さ。
そういった雰囲気作りが秀逸で、じわじわと精神を削り取られるような消耗感のある作りこそ、本作最大の魅力です。
サイバーパンク作品では、ウイルスなどによって自我が崩壊していく題材などもよく目にしますが、まさにそのような印象。ある意味では幻覚を題材にした作品と似通っている面もあるものの、記憶のデータ化や、それに直接アクセスできるというサイバーパンク特有の持ち味をよく生かしているので、この手の話が好きな方にはぜひ触れてみて欲しい作品です。