東京・調布市を走行中の京王線の車内で乗客が切りつけられるなどして17人がけがをした事件。ことし8月には、小田急線の車内で乗客が刃物で切りつけられ10人が重軽傷を負うなど、電車内で乗客が無差別的に襲われる事件が相次いで起きている中、安全対策や課題はどうなっているのでしょうか。
「ドア開かず窓から逃げた」
31日午後8時ごろ東京・調布市の国領駅近くを走行していた京王線の車内で72歳の乗客の男性が刃物で刺されて意識不明の重体になっていて、さらに中学生を含む16人が煙を吸うなどしてけがをしました。
同じ列車に乗っていた会社員 「2両目か3両目にいたところ、後ろのほうから人が一斉に押し寄せてきた。『やばい男がいる』という声が聞こえて、私も含めて、皆あわてて車両の窓を開けて逃げました。逃げている途中に、『刃物を振り回している』という声も聞こえました。とても恐ろしくて震えが止まりませんでした」
会社員 「列車のドアも開かず、みんなパニック状態になっていて、窓から駅のホームに降りました。怖いというより何が起きたのか分からず、とにかく早く逃げたいという気持ちでした」
停車位置ずれてドア開かず
なぜドアが開かなかったのか。 京王電鉄によりますと、国領駅に電車を停車させる直前、乗客が非常時にドアを開けるコックを使用したため、安全対策として加速が自動制御され、列車が停止したということです。
このため、通常の停車位置より手前で列車が止まり、列車のドアと駅のホームドアの位置がずれた状態になったということです。
車掌は、この状況でドアが開くと乗客が安全にホームに下りることができないとして、すべてのドアを開ける判断をしなかったほか、駅員も同様の理由でホームドアを開放するなどの対応を取らなかったということです。
車内の状況把握に課題
国土交通省によりますと、今回の事件では国領駅の1つ手前の布田駅を通過中に非常通報装置のボタンが押されましたが、車内が混乱していて何が起きているか車掌などがマイクで聞き取ることができなかったということです。 事件が起きた車両内には防犯カメラがなく、リアルタイムで車内の状況を確認することはできなかったとしています。
非常通報装置が押され、車内の状況が確認できない場合は次の駅で停車することになっているため、国領駅で停車しましたが、刃物を持った男が車内にいることが分かったのは、そのあとだったということです。
相次ぐ電車内“無差別事件”「乗るの怖い」
走行中の電車内で乗客が無差別的に襲われる事件はこれまでも相次いで起きています。 2018年には、神奈川県内を走行中の東海道新幹線の車内で、乗客の男女3人が切りつけられ男性1人が死亡しました。 さらに、ことし8月には東京・世田谷区を走行していた小田急線の車内で乗客が刃物で切りつけられ10人が重軽傷を負いました。
31日夜の事件を受けて、SNS上には「電車に乗るのが怖くなった」といった投稿が相次いでいます。
「電車の中って密室だし逃げ場ない。特急だと長い間止まらないし怖い」「もし息子と一緒に電車に乗ってて、あんな事件に遭遇したらと考えたら震えしか出てこない。窓から逃げてる方が多い様子だったけど、子ども抱えてどう逃げよう?」「小田急といい京王といい防止策がないから本当に怖い」「恐ろしい事件が続いていて電車に乗るのも怖い」鉄道各社や国土交通省の対策は
相次ぐ事件を受けて、鉄道各社は列車内を監視する防犯カメラの導入を進めたり、巡回の頻度を増やしたりするなど、対策を強化しています。 ただ、乗客の手荷物を検査することは現実的に難しく、刃物などを車内に持ち込んでもチェックしきれないのが実態です。
また、国土交通省は、東海道新幹線の事件などを受け、駅や列車内での防犯カメラの設置を鉄道事業者に促してきました。 一方、カメラの映像は事故や事件のあと、列車を車庫に移して、映像を取り出す仕組みになっている場合が多く、リアルタイムに把握できないものが多いということです。
東海道新幹線や東急電鉄では、リアルタイムに車内の状況を把握できるカメラの整備が進んでいますが、そのほかの首都圏の鉄道各社は、大規模な車両の改修や多額の費用が必要なことからすぐに全ての車両に導入することは難しいとしています。
国土交通省は、ことし8月に起きた小田急線での事件に続いて再び電車内で刃物を使った事件が発生したことから、全国の鉄道事業者に対して、駅などの巡回の強化や警備員が列車に乗車して警戒にあたるなど警戒監視を徹底するよう指示しました。
今後、警察と連携して行う京王電鉄の調査の結果を踏まえ、さらに各社に具体的な指示をすることも検討するということです。