欧州最大原発で火災、ウクライナはNATO支援強化要求 BBCなどロシア国内の活動中止 侵攻9日目

ロシアのウクライナ侵攻が9日目に入り、ロシアの砲撃が欧州最大の原子力発電で火災を引き起こしたことから、西側諸国は厳しく非難した。ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は西側に「ウクライナが生き残れなければ、欧州全体が生き残れない」として、支援強化を呼びかけた。ロシアではロシア軍に関する「偽の」情報拡散を実刑15年で処罰する法律が成立。これを受けて、BBCやCNNなど西側の主要メディアはロシア国内での活動を中止した。ウクライナから避難する人の数は150万人に迫りつつある。

ウクライナから避難150万人に迫る

ウクライナから国外に避難する人たちについて、フィリッポ・グランディ国連難民高等弁務官はBBCに対して、「人間のなだれ」のように大勢が隣国になだれこんでいるとして、その総数は「急速に150万人にせまりつつある」と話した。

ウクライナの隣国モルドヴァの国境を訪れたグランディ氏は、モルドヴァはすでに20万人を受け入れているものの、欧州連合(EU)加盟国ではない小国には「非常に対応が難しい負担だ」と述べた。

グランディ氏はモルドヴァ当局の働きをたたえ、さらに世界中の個人や民間企業が難民支援に協力していることを称賛。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)はこの数日だけで、1億件以上の寄付を受け取ったという。その上で、これは「長期的な危機」になるため、支援を長期間にわたり継続できるかが課題になると見通しを示した。

NATOに「あなたたちのせいで大勢が死ぬ」=ゼレンスキー大統領

ウクライナのゼレンスキー大統領は、首都キーウ(キエフ)の大統領執務室とされる場所から国民に向けて演説し、北大西洋条約機構(NATO)が4日に緊急外相会合を開いたが、ウクライナ上空に飛行禁止区域を設定して欲しいという自分の要請に応じなかったと批判した。

ゼレンスキー氏は「本日以降に大勢が死ぬのは、あなたたちせいでもある。あなた方の弱腰、あなた方の不一致のせいで」と非難し、NATOの緊急会合は「弱く、混乱した会議で、ヨーロッパの自由のために戦うことが一番の目的だと、誰もがそう考えているわけではないと示す会議だった」と述べた。

「NATO諸国の情報機関は敵の計画をよく承知しており、ロシアが進撃を続けるつもりだと確認した。それでもNATOはウクライナ上空を封鎖しないと、意図的に決めた。NATOは、ウクライナの空を封鎖すればNATOに対するロシアの直接攻撃を誘発してしまうという予想を作り出してしまった」とゼレンスキー氏は述べた。

大統領は後に、欧州各地で同時に開かれた抗議集会に向けてビデオリンクで演説し、「ウクライナが生き残れなければ、欧州全体が生き残れない。ウクライナが倒れれば、欧州全体が倒れる」と強調した。

トルコで交渉の提案

ロシアのジュネーヴ国際機関代表部大使、ゲンナディー・ガティロフ氏は4日、トルコ政府が、ロシアとウクライナの外相会談を来週トルコ・アンタルヤで開いてはどうかと提案したことを歓迎した。ロシア通信(RIA)が伝えた。

アンタルヤでは、今月11日から外交フォーラムが開かれる予定。

ウクライナ軍は勝てるのか

ゼレンスキー大統領のアレクセイ・アレストヴィッチ顧問はフェイスブックに、ウクライナ軍の抵抗が成功しているのは偶然ではなく、「特別に設計された因果関係を明瞭に実行していることから、反復的に成功が実現している」と書いた。

アレストヴィッチ氏は国軍と国民の抵抗が「ロシアの戦争マシーンをすりつぶして」いくとして、「ロシア軍は強くない。大きいだけだ」と指摘。「プーチンの陸軍の8割がここにいる。我々は連中をここに埋めてやる」とも書いた。

アメリカのアントニー・ブリンケン国務長官は4日、BBCのジェイムズ・ランデイル外交担当編集委員に対して、ウクライナがロシアに勝てる可能性はもちろんあると確信していると話した。戦争がいつまで続くか分からないが、ウクライナの敗北は決して避けがたいものではないとも述べた。

国務長官は、「ロシア軍が全力をかければ、ウクライナの実力をはるかに上回る」と認めた上で、ウクライナ国民の意志の力を評価し、ロシア政府がウクライナ国民の気骨まで屈服させることができないのは「やがて」明らかになるはずだと話した。

「もしロシア政府がウクライナの現政権を倒して、自分たちの傀儡(かいらい)政権を作るつもりでいるなら、ウクライナ国民4500万人がなにかしらの形でそれを拒否するはずだ」と長官は述べた。

一方でブリンケン長官は、アメリカと同盟諸国がエスカレーションの危険を警戒していると述べ、「ウクライナ国内限定の戦争よりひどい展開は、さらに拡大してウクライナ国外に波及する戦争だ」と懸念を示した。

ブリンケン長官はさらに、アメリカ政府はロシアの政権交代は目指していないと言明。「それはまったく我々がやることではない」として、ロシア国民が自国首脳陣の戦争責任を追及するべきだと呼びかけた。

アメリカでは野党・共和党の重鎮リンジー・グレアム上院議員が、プーチン大統領の暗殺をロシア国民に呼びかけるツイートをしており、ロシアがこれに強く反発したほか、米政界の与野党関係者からも批判されている。ホワイトハウスのジェン・サキ大統領報道官も4日、グレアム議員の主張は「アメリカ政府の方針ではないと言明した。

原発火災 「怖くなった」と専門家

ウクライナ南東部にある欧州最大のザポリッジャ(ザポロジエ)原発で4日未明、火災が発生した。ロシア軍の砲撃が原因とみられる。ウクライナ当局は同日朝、火災は鎮火し、原発本体に目立った被害はなかったとした。死傷者が数人出た模様ウクライナ当局によるとその後、同原発はロシア軍が制圧した。

ウクライナ救急当局によると、火災はロシア軍の砲撃によって、原発施設内の5階建ての訓練用建物の3~5階で発生。消防隊が火災現場に到着して約1時間後の午前6時20分ごろ(現地時間)、鎮火したという。

原発本体に被害はなかった。だが、消火が遅れれば、火が広がった可能性もあったという。ウクライナ外務省によると、火災で死傷者が数人出たという。

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当局は、放射線レベルは通常どおりだとしている。ただ、発電装置内で核燃料の冷却に問題が生じれば、大規模な放射線被害が発生する可能性がある。

ウクライナ外務省は声明で、「砲撃と戦闘で避難できない原発付近の民間人を含む数千人が、これによって被害を受けることになる」とした。また、チョルノービリ(チェルノブイリ)や福島の原発事故より深刻な被害が発生し得るとした。

ゼレンスキー大統領はロシアが「核のテロ」を行っていると非難し、「欧州人よ、目を覚ましてほしい。ロシアがウクライナの原発を砲撃していると、自国の政治家に伝えてほしい」と懇願。「ロシアはこれまでのプロバガンダで、世界を核の灰で覆うと警告してきた。今やこれはただの警告ではない。現実だ」とした。

イギリスのボリス・ジョンソン首相は、ザポリッジャ原発で出火したとのニュースが流れた直後、ウクライナのゼレンスキー大統領と電話で協議。原発を攻撃するという「無謀な行動」が「欧州全ての安全を脅かす」と非難した。

首相官邸報道官によると、ジョンソン氏は、「プーチン大統領の危険を顧みない行動は、欧州全体の安全の直接的な脅威になり得る」と伝えたという。

アメリカのジョー・バイデン大統領も、ロシアに対して原発周辺での軍事行動をやめるよう要求した。

原子力管理を専門とする英シェフィールド大のクレア・コークヒル教授はBBCに対して、原発火災の報を受けて「今朝初めて、怖くなった」と話した。

「ロシアはどうやら、原子炉の核反応を停止させ、安全で安定した状態に置こうとしているようだ。これがロシアの意図かもしれない。(ウクライナの)燃料源を標的にするには、原発近くの建物を攻撃し、原発作業員を脅して、原子炉の停止をさせるという方法がある」

原発への脅威続く=米国連大使

ニューヨークの国連本部では同日、安全保障理事会の緊急会合が開かれた。

アメリカのリンダ・トマス=グリーンフィールド国連大使は、「神の恩寵のおかげで世界はぎりぎり、核の大惨事を避けることができた」とした上で、ロシア軍はさらに「ウクライナ2番目の原発まで、約30キロと迫りつつある」と警告した。

大使は、キーウの南約320キロに位置する南ウクライナ原発を意味していたものと思われる。

「切迫した危険は続いている」とトマス=グリーンフィールド大使は述べ、「国際社会は一致団結して、ロシアに危険な攻撃を中止するよう要求しなくてはならない」と促した。

これに対して、ロシアのワシリー・ネベンジャ国連大使は、西側が原発攻撃をこぞって非難したことを一蹴。この日の安保理緊急会議は、ウクライナ当局がまたしても「人工的なヒステリー」を作り出そうとした結果だと批判した。

さらに、「ザポロジエ原発とその周辺地域は現在、ロシア軍が警備している」と大使は述べた。

ロシア軍がザポリッジャ原発を制圧したのは、ウクライナ南部掌握にとって重要な足掛かりになるからだという見方もある。

黒海に面する南部ヘルソンは3日、主要都市として初めてロシア軍に制圧された。

ロシア軍はウクライナ南部でほかに、南東部マリウポリを激しく攻撃している。マリウポリは、ロシアが後押しするウクライナ東部の分離派地域ドネツクとルハンスクに近い。また南西部の主要港湾都市オデーサ(オデッサ)も攻略しようとしており、こうした南岸地域をロシアに奪われると、ウクライナは海へのルートがふさがれることになる。

「爆撃で市民が殺されていると言っても、母親は信じてくれない」

偽情報の取材を続けるBBCの記者たちは、激しい攻撃を受けている北東部ハルキウに住むオレクサンドラさん(25)に話を聞いた。オレクサンドラさんによると、モスクワに住む自分の母親は、ハルキウではロシア軍の砲撃で民間人が死亡しているのだと言っても信じないのだという。

攻撃が始まって以来、犬4匹とマンションの寝室にこもっているというオレクサンドラさんは、モスクワ在住の母親に爆撃された市内の映像を送っても、母親は信じないと話す。

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「私のことは心配しているけれど、(爆撃被害は)たぶん事故だろうし、ロシア軍が民間人をねらうわけがない、自国民を殺しているのはウクライナ人だと、うちの親は私に言う」とオレクサンドラさんは話した。

オレクサンドラさんによると、自分の母親はロシア国営テレビが伝える内容を繰り返している様子だという。

BBCなどロシアでの活動中止

プーチン大統領は4日、ロシア軍に関する「偽情報」の拡散を最高15年の実刑で処罰するという法律に署名、成立させた。ロシア議会は3日、この法案を満場一致で可決していた。

プーチン氏はさらに、ロシアへの制裁を呼びかけた者を罰金・懲役刑の対象にする法案にも署名した。

それ以前にもロシア国内に残る独立系メディアは、ロシア政府が「特別軍事活動」と呼ぶものを「侵攻」、「戦争」と呼んだことを理由に次々と閉鎖に追い込まれた。

この事態を受けてBBCは4日、ロシア国内での活動中断を余儀なくされた。

BBCのティム・デイヴィー会長は、「ロシア連邦内におけるBBCニュースの記者と支援スタッフ全員の作業を一時的に中断するしかない」とした上で、「ロシア語のBBCニュース・サービスはロシア国外から、活動を継続する」と述べた。

会長は「スタッフの安全は何より大切で、ただそれぞれの仕事をしているだけで刑事訴追される危険に、スタッフをさらすつもりはない」として、スタッフの勇気と決意とプロ意識をたたえた。

さらにデイヴィー会長は、「BBCニュースを利用する数百万人のロシア人」を含め全世界の観客に正確な情報を提供し続けると約束。「ウクライナをはじめ世界各地のジャーナリストが、ウクライナ侵略について報道し続ける」と述べた。

これに先立ちロシア国内からは、BBCの各種ウエブサイトのほか、ドイツの公共放送連合体による国際放送ドイチェ・ヴェレなど複数の海外メディアが制限されていた。

米CNNとブルームバーグ・ニュースも4日、ロシア国内での活動を中止すると発表した。

RIAによると、ロシア政府はさらに、国内でフェイスブックのアクセスも禁止した。

BBCはこの事態を受けて、ロシア当局の検閲を回避してサイトに接続する方法や、匿名通信システム「Tor(トーア)」を経由してBBCニュースのミラーサイトに接続する方法を発表したウクライナ語とロシア語でも情報を提供した。

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