多発する無差別殺傷事件…現代文明が生む予測不能な攻撃者【精神科医が解説】

(※画像はイメージです/PIXTA)

多発する無差別殺傷事件…現代文明が生む予測不能な攻撃者【精神科医が解説】

無差別殺傷事件が多発しています。新幹線の中で人を殺傷した青年も、交番を襲い拳銃を奪った青年も、引きこもりの経験があったといいます。なぜこれほど悲惨な事件が多発しているのでしょうか。精神科医が著書『シン・サラリーマンの心療内科』(プレジデント社、2020年9月刊)で解説します。

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現代文明が生んだ予測不能な攻撃者

引きこもりの子供や若者が激増している。35、36歳までの日本人の中に50万人くらいいるといわれるが、引きこもらずとも、群れを嫌い孤独な生活を送る大人を加えれば、数字はもっと膨らむだろう。その中に精神を病む人々が少なからず混じっていたとしても、大半は病気と判定できるほどの症状を有さない。かつての村社会では、引きこもったままでは生き残れないが、ネットの普及や夜中にも開いているコンビニのおかげでひっそりと生きてゆくことが可能になった。そういった者たちの一部が、家族に伴われてクリニックの外来に多数現れる。彼らは押しなべてネットに浸ってゲームをやり、昼より夜に活発で、深夜のコンビニにはこっそりと出かけてゆく。結構、文明の恩恵を被っているのだ。彼らの家の電気代を聞いたことがある。数人の核家族で、ひと月に2万~3万円支払っている家もあった。四六時中、引きこもってクーラーをかけ続けるせいのようである。文明の力に頼り、自然から遠い生活を送っている。ただ、電気代が支払えるうちはである。昨今の人間は自分が自然の一部であることを忘れ、自然が好きと言いながら、直接の触れ合いを避けている。美しいバラを育てている人は、かなりの殺虫剤を使用している。山の豪華な別荘にも車で乗り付ける。文明の産物である殺虫剤や車に頼り「自然もどき」を自然と勘違いしているだけである。最近、激増するアレルギー疾患や自己免疫疾患は、自然と「人の内なる自然」との適正な交流を欠くことで生ずる免疫の混乱と信じられ始めている。精神的な変調のいくつかが、過度に清潔な環境に生後置かれたことによって引き起こされることもほぼ証明されている。文明に侵食され、自然との交流を欠いていると、精神の制御を司る「自我」が脆弱化し、人は衝動的となるのである。かかる事象を文明を興した人類は予測する術がなかった。昨今の環境破壊もそうだが、文明自体が予測不能なおぞましい事象を増やしている。新幹線の中で人を殺傷した青年も、交番を襲い拳銃を奪った青年も、引きこもりの経験があったという。一人は家を出され、一人は仕事についてゆけず経済的に行き詰まる中で犯行を決意したように思えるが、両者の犯行が予測不能性を帯びているところも特徴である。人が予測不能の行動に走るのは、己の内なる自然が脅かされた時に違いない。彼らは、文明に頼らずに生きる方法を知らなかったから、文明からの恩恵が途絶えそうになった時、文明によって脆弱化していた彼らの自然が、文明の誇る「安全装置」に向かって破壊行為を企てたように思えるのである。人間は予測不能の自然を生き抜くため、ルールを作り、人の行動予測を可能にする、すなわち文明を興した。しかし、その文明が生み出した予測不能な攻撃者に手を拱いているのは、自然から遠ざかりすぎたためではなかろうか。隣人の中から、突如立ち現れる予測不能の攻撃者を防ぐのに、校門の警備を厳しくし監視カメラを増やしたところで無駄である。少し異なる知恵が必要だ。例えば私の家にはクーラーがないが、田舎のおかげで風がよく通る。去年8月の電気代は4426円であった。

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