5G通信による歩行者事故低減のデモ(ホンダの将来安全技術)
「2050年交通事故死者ゼロへ」ホンダが公開した将来安全技術2021年11月25日、ホンダが「2050年交通事故死者ゼロに向けた先進の将来安全技術」を世界初公開した。技術は二本柱で、ひとつは、AIを活用し、ドライバーの状態に合わせて事故のリスクに対応する「知能化運転支援技術」。もうひとつは、全ての歩行者とモビリティが通信でつながってリスクを予兆し、回避をサポートする「安全・安心ネットワーク技術」である。関連画像を見るさらに、二輪車も手掛けるホンダらしく、二輪車の安全技術の普及と、安全運転教育の展開により、2030年に全世界でホンダの二輪・四輪車が関与する交通事故死者半減させ、2050年にはゼロを目指すという。二輪・四輪を合わせて対応できるのは、ホンダとBMWしかないわけで、さすがホンダという思いがする。一方で、もやっとした思いが払拭できないでいる。今回、紹介された内容では、子どもの事故削減、及び傷害値軽減にどれだけ効果があるのか見えないからだ。「知能化運転支援技術」でも防ぎきれない事故柱のひとつである「知能化運転支援技術」では、操作ミスをさせず、予知予測ミスを起こさせずとあり、ドライバー自身が事故をしないよう目標を定められている。ドライバーが事故をしない、イコール、子どもは犠牲になることはない。でも、もらい事故は防ぎきれない。その時、車内にいる子どもたちはどうなるのか。改めて子どもが関わる事故の数字を確認したい(数字はすべて、警察庁と交通事故総合分析センター=ITARDAによる。子どもの定義は、15歳以下)。2019年、未就学児の死傷数のトップは、車内である。幼稚園児では60%、未入園児はさらに高く78%だ。小学校に上がるとクルマでの移動の機会が減って一人で動くようになるため、歩行中や自転車乗車中が増えて、車内は40%前後に落ちてくる。それでも、4割前後は、車内で亡くなっているのである。ホンダ車が事故を起こさなくても、ほかのクルマが引き起こす事故に巻き込まれた場合、車内の安全対策が現状のままでは子どもたちの死傷者数はほぼ変わらないのである。「安全・安心ネットワーク技術」で子どもの行動に対応できるかそして、二本目の柱である、「安全・安心ネットワーク技術」。道に設置するカメラや、スマホなどの位置情報を活用するというけれど、それは子どもの行動範囲や生活パターン、ひいては事故パターンに対応できるのだろうか。子どもの事故は、交差点と単路が圧倒的に多い。ゆえに、ホンダが示す対策にも当てはまりそうに思える。でも、子どもはスマホを持っていない。特に、歩行中の事故が圧倒的に多い小学校低学年の子どもたちは、持たない子が多いのだ。ランドセルに装置をつける案を、内閣府SIP-adus自動運転でも研究していたけれど、子どもの事故は登下校中だけではない。いちど家に帰り、塾に行く、遊びに行くなどもある。発表では腕時計タイプが提示されていたけれど、ホンダが無償で15歳以下全員に貸与してくれるなら別だが、家庭の事情でそうしたツールを持てない子どもたちだっているはずだ。さらに、事故に巻き込まれる場所も、少数ではあるけれど、自宅駐車場やファミレスなどの駐車場もある。公道ではない場所では、カメラの設置は期待できないのである。チャイルドシートを取り付けないと子どもの命を守ることができない、という事実2019年、全死者数に於ける子どもの割合は、1.6%。約10年前の2008年の2.4%に比べ、徐々に少なくなってはいる(少子化の影響もあり)。費用対効果からいったら、高齢者に的をしぼったほうが有効だし「これだけ数が減りました」と、数の説得力もあるのはわかる。ただ、少子化問題というと、「どうやって産めるようにするか」にスポットライトが当てられ、不妊治療の助成金や、働きやすい環境を整えて産みやすくすることが議論されるけれど、生まれてきた子どもを、不慮の事故で死なせない。そしてケガをさせて障害を残させちゃだめだと思う。少なくとも、自動車メーカーが作っているクルマは、自社製品ではないチャイルドシートを取り付けないと子どもの命を守ることができないということを、各メーカーの安全担当は肝に銘じてほしいと強く願っている。岩貞るみこ|モータージャーナリスト/作家イタリア在住経験があり、グローバルなユーザー視点から行政に対し積極的に発言を行っている。レスポンスでは、女性ユーザーの本音で語るインプレを執筆するほか、コラム『岩貞るみこの人道車医』を連載中。最新刊は「世界でいちばん優しいロボット」(講談社)。
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