ニュース 鉄道テロ「車内監視カメラ義務化」で抑止になるか 小田急・京王事件 世界との違い

小田急・京王事件 犯人に2つの共通点

2016年3月にブリュッセルの地下鉄で発生した爆破テロ後、駅を警備する兵士(画像:ロイター)。

ニュース 鉄道テロ「車内監視カメラ義務化」で抑止になるか 小田急・京王事件 世界との違い

 2021年は鉄道内での刺傷事件が世に大きな衝撃を与えた。小田急線と京王線の車内で、若い成人男性たちが無差別に乗客を刺し、多くの人々が負傷した事件だ。【日本は何を?】小田急・京王線事件を受けた国の対策を画像で見る テロ対策研究上、2021年8月6日の小田急線殺傷事件、10月31日の京王線殺傷事件には2つの共通点があるといえる。まず、犯人による場所の選択である。小田急の犯人は事件直前、登戸駅から上り快速急行に乗車し、成城学園前と祖師谷大蔵駅の間で事件に及んだが、この快速急行は登戸から下北沢まで長い区間を走り抜ける。言い換えれば、長い時間、そこには閉ざされた空間が生じるのである。 京王の犯人も調布から上り特急に乗車し、その直後に犯行に及んだ。特急は国領駅に緊急停車したが、京王線特急も調布から明大前まで長い区間を走り抜け、10分程度は止まらない。要は、両事件の犯人ともできるだけ多くの被害を出すため、あえて長い時間、閉ざされた空間が生じる速達列車を狙った可能性がある。 もう1つの共通点は、犯行に及んだタイミングである。小田急の事件は8月6日、京王の事件は10月31日だが、前者は東京五輪の開催中、後者はハロウィーンの日であり、事件を起こせばメディアも注目するタイミングである。 世界で起こるテロ事件で、実行犯が社会に恐怖心や不安を拡散させるべくタイミングを慎重に選ぶことは決して少なくなく、過去にオリンピックのタイミングでテロが発生したのも偶然ではない。小田急、京王事件の犯人とも、タイミングを意識して計画的に犯行に及んだと思われる。 鉄道で立て続けに世間を驚かせる事件が続いたことで、国土交通省は12月、列車内の監視用カメラ設置を義務づける方針を明らかにした。これが、今後に現れる恐れのある模倣犯たちへ強い抑止になることが望まれるが、果たしてどれほど効果があるかは分からないのが現状だ。

逮捕を恐れない“グレーゾーン”事件の犯人たち

ジャカルタの鉄道。車内には警備員の姿(画像:benoitricoine/123RF)。

 一般犯罪の犯人は隠れるように犯行に及ぶ傾向が強いが、小田急・京王事件のように、犯罪ともテロともとれるようなグレーゾーン事件においては、実行犯たちは逮捕されることを恐れない。テロリストはあえてアピールするように犯行に及ぶ傾向すらある。つまり、監視カメラによる抑止ではなく、強制的に犯行を抑える手段が必要な場合があるのだ。 日本と一概に比較することはできないが、イスラム国(IS)などイスラム過激派によるテロに悩まされてきた欧米諸国では、もっと踏み込んだテロ対策が実行されている。この数年間に筆者は国際会議で欧州各地を訪れたが、たとえばローマの地下鉄車内や駅改札内では警察官が厳重に警戒していたし、各地で重武装した警察官の姿も見られた。怪しい動きをしている者には、すぐに近づいて尋問、場合によってはすぐに発砲もあり得るという緊張した雰囲気が駅構内に漂っていた。 実際、筆者はバチカンからローマ中心駅へ戻る際、下りと上りの電車を間違い、引き返そうとして途中駅で下車ホームから乗車ホームに移動する際、怪しい動きをしていたとみられたのか、武装した警察官が近づいてきて「どうした?」と尋ねられたのをよく覚えている。親切に道を教えようとしてくれたと思っているが、武装した大きな警察官が近づいてくると強い威圧感を感じた。まさに、日本ではないテロ対策の一環だろう。 2016年3月ブリュッセル同時テロ事件、2009年11月ロシア・特急ネフスキー脱線テロ事件、2004年3月マドリッド列車爆発テロなどのように、欧州では電車が標的とされるテロ事件が続いてきた。多くの市民が利用し、乗車も簡単な鉄道は必然的にテロの標的となるが、上述に照らせば、監視カメラの義務化だけで事件を防止できるかは分からない。 抑止効果は期待できるだろうが、ローマなどで実行されるような「見せる」「威圧する」警備というものも、あえてアピールするように犯行に及ぶ可能性も排除できない中では必要だろう。マンパワー的な問題があるので、全ての列車において実施するのは難しいと思われるが、少なくとも新幹線などでは、鉄道会社と警察とのこれまで以上の関係強化が望まれるところだ。

和田大樹(清和大学講師/オオコシセキュリティコンサルタンツ アドバイザー)

最終更新:Merkmal

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