ビッグデータはデジタル革命の中で金になる副産物として登場した。これはスマートフォン、センサーのネットワーク、クラウドベースのアプリやデータベースといったものから集められた膨大なデータの塊によって可能となったものだ。このデータから得られる有意義なインサイトで、例えば都市がリアルタイムな人や交通の流れを把握できるようになったり、生命保険会社がより正確な死亡率を立証したりすることができるようになっている。IDC が最近明らかにしたところによれば、分析を通じてビッグデータから意味を抽出することは、今日では2,000億米ドルの産業だと推定されている。
そういった背景で PredictHQ は次のようなことを実現させている。同社が提供している特設のデータ集約プラットフォームは、イベント(祝日、コンサート、お祭りなど)に関連した無数の情報源から情報を取り出し、それをさらに「見つけにくい」データと組み合わせ、機械学習を少々加えて混ぜ合わせ、アプリケーションプログラミングインターフェース(API)を通じてサードパーティ企業に販売している。
それまで目立っていなかった PredictHQ は昨年、1,000万米ドルの資金調達と、多数の大物クライアントで頭角を現した。例えば、配車大手の Uber は需給管理を手助けするサージプライシングメカニズムの一部として PredictHQ を使うことができ、また Domino’s のような企業はビッグデータのスマートを使い、一度に何人のドライバーを用意するのかといったことを見極めることができる。
本日(9月3日)、PredictHQ は同社初となる特定業界向けの製品を発表した。正面から航空会社を意識して作られたものだ。航空ランクと呼ばれる新たなツールは、ベータ段階では PredictHQと(非公開の)複数のヨーロッパ航空会社の協力によって開発され、機械学習モデルを使用してどの世界的なイベントが航空便予約の需要にインパクトを与えるのかを予測することができる。対象は注目度の高いもの、たとえばミュンヘンのオクトーバーフェストや、マディソンの業界イベント World Dairy Expo など、2万人近い人が飛行機に乗って参加しに来るイベントだ。主要なカンファレンスは1年ごとに場所を変えることもあり、航空会社がフォローするのは特に困難だ。
しかし航空会社が、例えば配車企業と比べて、特に専用の製品を必要とする理由は何だろうか?まあ、すべてのイベントが等しく作られているわけではなく、中にはインバウンドの乗客を非常に引き寄せるであろうものもある。PredictHQ はノイズを切り分け、どのイベントが特に空の便にインパクトを与えそうかを見出すのだ。
PredictHQ の CEO 兼共同設立者の Campbell Brown 氏は VentureBeat にこう語った。
航空ランクはイベントを独特な、そして非常に明確な基準で特定します。どのイベントがどれくらい航空券予約にインパクトを与えるのかという基準です。
例えば、Kevin Hart 氏のお笑いのイベントは4万人の人々を引き付けると思われ、弊社のユーザの多くに大きく関係しますが、航空会社にとっては国内向けの旅行客を増やしません。究極的には、ビッグデータは扱いづらく、単にデータが多いからといってそこから意味を抽出できるわけではないということです。ビジネスが必要とするのは市場の競争の中で、電光石火の速度で意思決定をするためのスマートデータと関連性です。
特定の地域がほぼ同時期に複数のイベントを引き寄せることもありえるので、航空ランクが特に有用であることを証明できると推測される。航空会社が1つのイベントに1点集中していては検知できないであろう、同社が「完璧な需要の嵐」と呼ぶものを検知するのだ。
Brown 氏はこう続ける。
弊社が航空会社の顧客から受ける最も大きなフィードバックの1つは、真の金脈は見過ごされがちな小さめのイベントの集まりを明らかにしたところにあるということです。これらの完璧な需要の嵐はしばしば、少なくとも最大級のイベントと同じほどのインパクトがあります。
航空ランクはコンサートやカンファレンス、スポーツイベントやその他を含む、世界中で行われる2,000万件のイベントのデータベースを活用し、PredictHQ はそれぞれのイベントが空の便に与えるであろうインパクトを、インパクトなしの0点から大きなインパクトの100点までの間でスコアを割り振っている。PredictHQによれば、同社は航空会社にとって「高インパクトな」イベントが毎月およそ3,000件あることを浮かび上がらせた。
航空会社はそれぞれが認識する重要性に基づいてイベントをフィルタリングすることもでき、例えば、「重要視すべき」および「主要な」イベントにのみ注力するよう選ぶこともできる。
また、航空ランクは単にイベント情報を集めるだけではない。その基礎をなす技術は、どういったタイプのイベントが催されるのか、参加人数の予想、季節、時期、その他を見極め、構造化データと非構造化データの両方を網羅している。これを支えるのは機械学習と深層学習のアルゴリズムであり、自然言語処理(NLP)技術を活用して、どこで、なぜ、どのようにして世界的なイベントが催されるのかを、イベントが航空便に与えるインパクトも含めて見出す。
結果として得られた PredictHQ 航空ランクのナレッジグラフは、航空便の時系列データを用いて需要の急増を確認し、それをイベントデータと組み合わせる。この組み合わせは同社の機械学習システムのトレーニングに使用され、その予測モデルを向上させる。
他社もまた航空業界に予測スマートを持ち込もうとしている。過去の価格データを用いて顧客に航空券を買う最良のタイミングを知らせるプラットフォームを開発するモントリオール拠点の Hopper は、2億米ドル近くを調達した。また、航空運賃の推移を予想するデータ分析製品を開発するサンフランシスコ拠点の Flyr は最近、1,000万米ドルを調達した。
航空会社がイベントデータのまとめや情報を使うことをどのように選ぶのかについては、分かりやすい活用事例がいくつかある。Uber のサージプライシングと同様に、航空ランクは特定の日時における航空便の価格設定にインパクトを与える可能性があり、またより多くの新規顧客を乗せられるよう追加の航空便を加えることに使われるかもしれない。
Brown 氏はこう付け加える。
航空ランクが明らかにしたのは、毎月多くのイベントで需要が急増し、それは航空会社が需要のある路線で追加の便を加えるに値するものであり、また航空会社に数十億米ドルのチャンスを提供するものであるということです。航空ランクはより良い価格設定を可能にするものであり、同時に、どのイベントが市場のシェアを競合から奪うチャンスなのかを教えてくれる、またとない機会なのです。
ここが重要なポイントだ。航空ランクは航空会社が競合に対して競争力を持つことができる方法だとピッチされてきた。もしある航空会社が、地域内で同時に催される3つか4つのイベントを予測できるならば、その航空会社は需要に合わせて便を増やし、その過程でより多くの顧客を勝ち取ることができるのだ。
Brown 氏はこう続ける。
航空会社の需要予測という極めて重要な機能は、あまりにも長い間当て推量のままでした。航空ランクは、航空産業における需要情報にブレイクスルーを起こすものです。チームは毎週数時間かけてイベントを Google 検索し、そのインパクトを推測するのではなく、瞬間的にアクセスできるファクトに基づいて意思決定できるようになり、より多くの時間をフライトの舵取りに費やすことができるのです。
そして、もし将来的に PredictHQ が他産業に特化した予測ツールをローンチしても驚くべきことではない。
Brown 氏は述べた。
弊社は交通ランクのような、将来的なランクもそれぞれにユニークなものになると予想しています。弊社はそれぞれの産業独自の詳細やパターン、それにイベントの特性を学んでいますから。
【via VentureBeat】 @VentureBeat
【原文】
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