次代を担う成長企業の経営者は、ピンチとチャンスが混在する大変化時代のどこにビジネスチャンスを見出し、どのように立ち向かってきたのか。本特集ではZUU online総編集長・冨田和成が、成長企業経営者と対談を行い、同じ経営者としての視点から企業の経営スタンス、魅力や成長要因に迫る特別対談をお届けする。
今回のゲストは、株式会社シノプス代表取締役の南谷洋志氏。「世界中の無駄を10%削減する」をビジョンに掲げ、食品流通業のデマンド・チェーン・マネジメントの実現を目指している。同氏に創業のきっかけ、事業の変遷、コロナ禍の転換、思い描いている未来構想などを聞いた。
(取材・執筆・構成=菅野陽平)
(画像=株式会社シノプス)南谷 洋志(みなみたに・ひろし) 株式会社シノプス代表取締役大阪府出身。関西大学の卒業論文に在庫管理学を修める。大学卒業後、現ダイトロン株式会社へ入社し、営業職に従事。1987年10月にシノプスを起業(旧社名リンク)。96年より物流最適化に取り組み、98年には卸売業向けソリューションの提供を開始。2005年に行った専業メーカーへの決断以降、需要予測型自動発注システム「sinops」事業のシェアを小売業中心に全国で広げる。18年東証マザーズ上場。冨田 和成(とみた・かずまさ)株式会社ZUU代表取締役神奈川県出身。一橋大学経済学部卒業。大学在学中にIT分野で起業。2006年 野村證券株式会社に入社。国内外の上場企業オーナーや上場予備軍から中小企業オーナーとともに、上場後のエクイティストーリー戦略から上場準備・事業承継案件を多数手掛ける。2013年4月 株式会社ZUUを設立、代表取締役に就任。複数のテクノロジー企業アワードにおいて上位入賞を果たし、会社設立から5年後の2018年6月に東京証券取引所マザーズへ上場。現在は、プレファイナンスの相談や、上場経営者のエクイティストーリーの構築、個人・法人のファイナンス戦略の助言も多数行う。物流施設の非効率をなくすため、自社パッケージを開発
冨田:2018年12月の上場なのですね。我々(株式会社ZUU)も2018年の上場です。もちろん社歴では御社が大先輩になりますが、「上場同期」と言えるかもしれません。今日はどうぞ宜しくお願いします。早速ですが、現在の事業展開のきっかけや変遷について教えてもらえますか?
南谷:ずっとサラリーマンをしていたのですが、懇意にさせていただいていた取引先の経営者から、「独立する気があるなら、1年分の注文書を出してあげるよ」と言われたことが起業のきっかけです。
当初は、いわゆるファブレスで電子機器の組立工場のようなことをやっていました。1台30万円くらいする画像処理装置のハードウェアを約4年かけて3,000台くらい作りました。しかし、5年目くらいから発注元の会社が傾き始めました。焦って他の事業を探していたところ、目についたのが「物流の合理化ビジネス」でした。
大学の卒論では「在庫管理とそのシミュレーション」をテーマにしていた経験もあり、物流施設の発注の様子を見ていると、非効率な部分が多いことに気がついたのです。当初は、何か良い他社のパッケージ商品がないかと探しましたが、良いものがありませんでした。「それなら自分で作ろう」ということで、物流センターの効率化を図るパッケージ商品の開発、販売を始めました。
さらに大きな転換点が、「小売業の店舗の自動発注」への参入です。当時の小売業は「1つ売れたら1つ発注する」というようなシンプルな発注方法を取っていました。「需要を予測して、売れそうな事前に商品を並べておく」という当たり前だと思えることが行われていなかったのです。
そこで2004年、需要予測型在庫最適化システムパッケージをリリースしました。それまで業界になかったサービスだったので、色々な先輩から「失敗するからやめろ」と言われましたね(笑)。ただ私としては、そこまで他の事業で利益が出ていたわけではなかったですし、退路を断って取り組んでみようと思っていました。いま振り返ると背水の陣でしたね。
冨田:上場時の「成長可能性に関する説明資料」も改めて拝見しましたが、当時からだいぶビジネスモデルが変化しているように感じます。もうすぐ上場して丸3年が経ちますが、この3年間でどういった事業の変化や広がりがあったのでしょうか?
南谷:ありきたりなことですが、上場した後は会社の信用力が上がったと感じています。メインターゲットである小売業さんと秘密保持契約を結ぶときも、すぐに判子を押して返してもらえるようになりました。
大きな変化のきっかけは新型コロナウイルスです。コロナ禍によって、一時は新規案件がすべてストップしました。昨年の春から半年くらいは新規案件がゼロでしたね。どうせ売上が落ち込むのならば、「これを機にビジネスモデルを転換しよう」と改革を進めてきました。
これまでパッケージビジネス中心だったのですが、コロナ禍を機に、クラウドに切り替えて、ストック比率を上げることを目指しました。それまでストック収入の比率は40%くらいでしたが、一気に60%くらいまで引き上げたいと思っています。半年から1年くらいをかけて新しいサービスを作りまして、今期半ばから成果が出つつあります。
株主の皆さまにも、「飛躍のためのしゃがみ込み(一時的な業績停滞)をします」とご説明しました。不安になった株主さまもいらっしゃったと思いますが、良い状態になりつつあると思っています。お約束した飛躍を果たす手応えを感じています。
コロナ禍を契機にストックモデルへ転換
冨田:「2021年12月期 第2四半期 決算説明資料」を拝見すると、2021年12月期の売上計画の約12億円に対して、5億1,700万円までクラウド事業(ストック収入)が積み上がる想定なのですね。上場時の「成長可能性に関する説明資料」では、あまり押し出されていなかったクラウドがここまで伸びているのは大きな変化だと思います。
クラウドのアカウント数を見ても、右肩上がりで増えていますね。せっかくなので画面共有しましょうか。(編集部注:以下の画像を見ながら議論が続く)
(画像=株式会社シノプス 2021年12月期 第2四半期 決算説明資料より引用)南谷:トップラインが伸びているのは、白い部分の無償アカウントが一定寄与しています。既存顧客に向けて「無料で良いので使ってください」と配ったためです。まずは無償でたくさんの企業に使ってもらうことで、当社内に多くのノウハウが貯まりました。ただ、無償アカウントの配布はもう一巡しておりまして、今後は縮小していく予定です。実際に2021年3月から21年6月にかけて、無償アカウントは1,466から1,029へ減少しています。
今後は、有償アカウントの増加に力を入れていきます。2021年3月から21年6月にかけて、有償アカウントが351から897と2倍以上になったことは非常にポジティブなことだと考えています。
1アカウントごとの金額を上げる努力もしていますので、単価上昇のめども立ちつつあります。
冨田:有償アカウント数が伸びていき、平均単価も上がっていくとなると、単純に考えても来期以降は大きな業績インパクトがありそうですね。
南谷:おっしゃるとおりですね。「導入支援」と呼んでいるコンサル料も一定額は期待できますし、何よりもストック収入額とストック収入比率が上がっていくことは、株主様や投資家の皆さまにとって望ましい展開ではないかと思います。
冨田:無償アカウント数もまだ1,000以上ありますし、無償アカウントを使っている既存顧客が段々と有償アカウントに変移する展開も想定できますね。お話を伺っていて、より分かりやすいビジネスモデルになるのだなと思いました。(編集部注:画像を見ながらの議論はここまで)
デマンド起点で「世界中の無駄を10%削減する」
冨田:そうなると、戦うゲームが変わってくるのだと思います。ストックがあれば、プロモーションや機能開発にも、より資金を回せるようになるはずです。クラウドへの転換も大きな判断だったと思いますが、南谷社長が経営判断で重視しているのはどのようなことでしょうか?
南谷:私はオーナーかつ創業者ですから、短期的な視点はあまり持っていません。「最大多数の最大幸福」と言いますか、中長期的に一番企業価値が高まる判断をしていきたいと思っています。これまでもロイヤルユーザーに支えられて、無理難題を言われながら、それでも何とか事業を進めてきました。今回のコロナ禍のように、瞬間的なしゃがみ込み(一時的な業績停滞)はこれからもあると思いますが、成功するまでやめないつもりで取り組んでいます。
ソフトウェアは「投資対効果が見えづらい」と言われています。そこで当社は、クライアント様に導入していただくときはKPIを定義し、お互いで共有して、投資対効果をできる限り見える化しています。導入していただく際に「現状はこうだけど、こうなったらいいね」といったことを握っておくのです。
ソフトウェアは1度ロジックがうまくいくと、その後は比較的スムーズに物事が進みます。これまで、たくさんクライアント様に怒られてきましたが(笑)、おかげさまで今は、それなりに精度が良いサービスが展開できていると思っています。
冨田:最後に、思い描いている未来構想について教えてください。
南谷:当社は「世界中の無駄を10%削減する」ということをビジョンに掲げています。物流や保存技術も劇的に進化していますが、そこにかかるコストもエネルギーも時間も膨大なものになっており、間違った判断をしてしまうと、無駄も巨大なものになってしまいます。
このビジョンを実現するためには、サプライチェーンマネジメントの逆を取って、デマンド起点でやるしかないと思っています。日本人は味に厳しく、賞味期限や消費期限といった日本特有の制度もあります。また、「もったいない」という精神は多くの日本人に染み付いているものだと思います。
だからこそ、口にするもの(食品)の無駄の削減は、社会的価値も高い大きなテーマだと考えています。これからも、愚直にこのビジョンの達成に向けて、走り続けたいと思います。そのなかでクライアント様が当社サービスの効果を実感してもらえればと思います。
冨田:御社はここからさらに大きく成長されていくイメージがとてもわきました。本日はありがとうございました。