世界遺産登録の軍艦島へ。日本の近代化を支えた海底炭鉱の今を見てきた!

世界文化遺産に2015年登録された「軍艦島」

 長崎県と長崎県観光連盟は、「100年に一度の変化期にある長崎市を巡る旅」として、変わりつつある市内の新名所、文化的な見どころをメディア向けに公開した。

 今回訪れた長崎港沖合約19kmに位置する「軍艦島(端島)」は「明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業」の構成資産の1つとして、2015年世界文化遺産に登録。日本の近代化の礎となった産業遺産「端島炭坑」を有し、1890年(明治23年)から三菱所有となり本格的に稼働、良質な製鉄用原料炭を産出する海底炭鉱として栄えた歴史を持つ。

変化期にある長崎市を巡る旅

  • 開業前の西九州新幹線 長崎駅ホームを見てきた! 変化のただなかにある長崎市を旅する
  • 世界遺産登録の軍艦島へ。日本の近代化を支えた海底炭鉱の今を見てきた!
  • 長崎を早朝ぶらり。朝活で出島までカヤックで川下り! 新規オープンの恐竜博物館も見てきた
  • 長崎港から出発。往復約2時間半の海上の旅がスタート

     軍艦島への上陸は、現在ツアーでのみ向かうことができる。今回はシーマン商会による「軍艦島ツアー 上陸&周遊コース」(大人3900円、中高生3100円、小人1900円)を利用。別途上陸の際は「施設見学料」(一般310円、小学生150円)が必要だ。乗り場は長崎港の常盤2号桟橋。ここから「さるくII号」に乗船した。

    世界遺産登録の軍艦島へ。日本の近代化を支えた海底炭鉱の今を見てきた!

     長崎港航行中は、周囲の世界遺産について船長の湯浅氏が説明。三菱重工長崎造船所「ジャイアント・カンチレバークレーン」や「小菅修船場跡」。メンテナンス中の護衛艦についてなど、目の前に迫る巨大な船や建造物に関して紹介した。

    長崎港常盤2号桟橋より「軍艦島ツアー 上陸&周遊コース」へ出発今回乗船した「さるくII号」船は2階に展望デッキ、オープンエアタイプの1階後部座席がある船内座席はゆったりめで、揺れも少なくとても快適「軍艦島」への入島チケット長崎港内を航行中、停泊中の船を眺めたり、映画のような迫力の情景が広がる三菱重工長崎造船所「ジャイアント・カンチレバークレーン」も間近に日本初の蒸気機関を動力とする曳揚げ装置を採用した「小菅修船場跡」

    「軍艦島」の手前では約20分ほど周遊。立ち入り禁止区域を船からじっくりと眺め、写真を撮ることができた。現在は祠のみが残る「端島神社」や、社宅が高層アパートの密集により常に電灯を付けていたため、学校だけは窓を大きくし採光していたことなどの解説も。移動をスムーズにするための渡り廊下、実写版の映画「進撃の巨人」で登場したX型の階段。さらに波による護岸の破壊で見えるようになった映画館跡から、上部の共同浴場まで生活の跡がまざまざと残っていた。

    軍艦「土佐」に似た姿のため「軍艦島」と呼ばれるようになった人々の心の拠り所。現在は祠のみが残る「端島神社」高層部での移動が効率よくできるよう設置された渡り廊下映画「進撃の巨人」で登場したX型の階段護岸修復前だからこそ見ることができる映画館跡周辺丸い穴のある建物は共同浴場。風呂は島内に3か所あった想像以上に風化が進行中の高層アパート外側のアパート「51号棟」と「48号棟」は大時化時に内側のアパート守る防潮棟も兼ねている

     なお島を所有する長崎市の「端島上陸見学施設利用基準」により、伊王島沖の波高計の測定値が0.5mを超える場合や周辺海域における視界が500mに達しない場合、許可事業者の船舶に設置された風速計の測定値が5mを超えるときは上陸が不可となり、「軍艦島周遊+高島上陸コース」に変更となる。直前まで上陸の許可が降りないため、乗船中もかなり乗客は緊張している状態で、無事上陸が許可された瞬間は思わず歓声が上がった。

    島民も使った「ドルフィン桟橋」から「軍艦島」へ上陸する見学広場は全部で3か所。船内で事前にマップが表示される見学通路が整備されており、安全に見学エリアまで向かうことができた

    「軍艦島」に上陸しての見学は約45分と短いため、ガイドが順路に沿って説明。ふと横を見ると大波により倒壊した護岸が横たわり、自然の脅威が間近に迫る。「端島炭坑」は海底炭鉱のため、地下1000mまで炭坑夫は向かう必要がある。地下への入り口「第二竪坑入坑桟橋跡」の階段には、当時の採掘で足に付いた石炭の粉の黒い跡が閉山から約47年経った今でも克明に残り、仕事後の汚れを落とすための風呂などに水を提供する島民用貯水タンクは山頂に佇んでいた。

    上陸時間を有効に使うため、当時の写真を見ながらガイドが詳細説明を行なう閉山から47年経過し、島全体が風化。遺構が周辺に散らばっている状態大時化のため破壊された護岸があちこちに横たわる「第二竪坑入坑桟橋跡」の昇降階段には黒い跡が残る。この先の櫓から地下636mまで90秒で一気に降りていた島の水を管理した貯水タンク。かなり節約して住民は使っていたとのこと

     なお、世界遺産登録されているのは、明治時代の建造物のみで、現時点ではレンガ造りの「総合事務所」こと「第三竪坑捲座跡」ならびに石灰と赤土をまぜた接着剤「天川」を使った石積みの護岸のみとのこと。日本初の鉄筋コンクリート造りのアパート群は大正時代に建造されたため対象ではないが、島全体が世界遺産エリアとのことだ。

    世界遺産の対象であるレンガ造りの「総合事務所」こと「第三竪坑捲座跡」同じく対象の石灰と赤土をまぜた接着剤「天川」を使った石積みの護岸

     続いては日本最古の7階建て鉄筋コンクリート造高層アパート「30号棟」「31号棟」へ。「31号棟」は防潮棟の役割を持ち、窓はすべて廊下側。内側の建物や来島者が泊まる宿泊棟「25号棟」を守る形で建てられている。ちなみに、来島時には三菱社員と警察のチェックが入るためセキュリティは万全だったとのこと。

    日本最古の7階建て鉄筋コンクリート造高層アパート。手前が「30号棟」。左が「31号棟」崩壊が進む「30号棟」。住居部分の奥までしっかりと見ることができる「25号棟」の階段。1~2階が宿泊所、それ以外は社宅一面コンクリートの世界。古代遺跡のような景色が広がる

     乗船前にはボタ(石炭として使えない石のこと)を捨てるためのベルトコンベアー跡や、精炭(精選された石炭)を貯炭場に送るためのベルトコンベアーの支柱などを見学。島をあとにして、船内では「軍艦島上陸記念証明書」が配られた。ほかにも無煙炭の石炭、オリジナルペーパーファン、酔い止めのキャンディも渡された。なお、帰りの船内では「軍艦島」にまつわる映像が流れ、より身近に感じられる工夫も。あっという間に長崎港に到着し、ツアーは無事終了となった。

    海にボタを捨てるためのベルトコンベアの穴の跡。現在は埋められている支柱のみとなった精炭を貯炭場に送るためのベルトコンベアー跡。奥は「端島小中学校」「端島炭坑」が世界遺産「明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業」の構成資産であることを示すボード乗船すると渡されるグッズと「軍艦島上陸記念証明書」

    「長崎出島ワーフ」でトルコライスor市内で長崎和牛食べ比べどっちにする?

    「軍艦島」へ上陸したあとは、長崎港に面した複合施設「長崎出島ワーフ」へ。下船した常盤2号桟橋からも徒歩圏で市街地にも近く、食事やコーヒーブレイクをするのにぴったり。オープンエアのテラス席が並び、港の景色を眺めながら長崎名物が味わえるベストスポットだ。

     今回訪れたのは「Delicious Restaurant Attic」。大人のお子様ランチにアップデートした長崎名物・トルコライスを提供中で、一番人気の「Attic デリシャストルコライス」(950円)は通常トンカツが乗る場所に、いろいろな味を楽しんでほしいとヒレカツ・エビフライ・クリームコロッケをオン。サラダもたっぷり盛られ、サフランライフとスパゲティもほどよい量で、女性でも完食できるようアレンジ。お店自慢のスペシャリティコーヒーも食後にプラス100円でつけられるなど良心的だ。

    長崎港のベイエリアに位置する「長崎出島ワーフ」海沿いに道がひらけており散歩にもぴったりオープンテラスで海を眺めながら食事ができる「Delicious Restaurant Attic」名物の「Attic デリシャストルコライス」をオーダー

    「軍艦島」上陸後、港に戻って祝杯をあげるのにぴったりなお店をもう1軒ご紹介。こちらも長崎港から徒歩圏、出島からすぐ近くの「長崎和牛焼肉 ぴゅあ」だ。JA全農ながさき直営で、扱う和牛の品質のよさはお墨付き。柔らかでほどよい霜降り肉を焦げ目が少しつくまで焼いて頬張れば、口の中でとろけ至福の時が訪れる。

     お勧めはランチタイムの「長崎和牛カルビ3種盛りランチ」(1500円)。手の届きやすい価格帯ながら、カルビ・モモ・漬け込みカルビの3種の食べ比べが楽しめると大人気。タレは自家製の醤油だれと味噌だれの2種で、ランチはご飯もおかわり可能。県内産のお米に、日本一のお茶「そのぎ茶」、食後に長崎みかん「味ホープ」のサービスと長崎のうまいが大集結。ランチだけでなくディナーも訪れたくなるはず。

    JA全農ながさき直営「長崎和牛焼肉 ぴゅあ」「長崎和牛カルビ3種盛りランチ」、お皿左からモモ・カルビ・漬け込みカルビバランスのよい脂身はオリーブオイルのよう。口の中でスッとトロける

     食後は散策がてらコーヒー専門店へ。コーヒー伝来の地でもある長崎では、市内に個性的なコーヒーショップが近年増えており、気軽に美味しい1杯を味わえる。長崎銘菓との相性も抜群、お気に入りのスイーツにぴったりの味わいを探してみるのもよい。

     訪れたのは「カリオモンズコーヒー 長崎」。世界中を旅して手に入れたこだわりのコーヒー豆の販売とコーヒーの提供を行なっている。フレンチプレスで淹れたコーヒーは豆の脂分が抽出され甘さや香りが際立つクセになる味わい。産地にまつわるストーリーが書かれたインフォメーションカードもカップとともに渡され、読みながら&飲みながら生産地に思いをはせることもできた。

    「カリオモンズコーヒー 長崎」ではコーヒーの提供と豆の販売を行なっているフレンチプレスで淹れるとコーヒーオイルたっぷりの1杯に仕上がるニカラグア産「LA BENDICION」。一緒にインフォメーションカードも付いてくる

     なお、長崎港側のベイエリアでのんびり1杯を楽しみたいならば「e.m.e」がお勧め。もっちもちでほろ苦さと甘さがたまらない「カヌレ」(200円)をはじめスイーツが絶品と話題。「カフェラテ」(450円)を飲みつつ、スイーツをパクッ、街歩きのおともに最適だ。

    こだわりコーヒーと絶品スイーツが話題の「e.m.e」店内のカウンターには焼き菓子を中心にお菓子が並んでいるお勧めされた「カヌレ」と「カフェラテ」を購入

     1回目は「西九州新幹線」そして今回は「軍艦島」と新旧2つの長崎の表情を見てきた今回のツアー。次回は長崎旅は早朝も充実! ということで、眼鏡橋付近からカヌーが楽しめる「朝たび長崎」プラン、そしてスパ併設のリゾート。さらに10月末にオープンしたばかりの「長崎市恐竜博物館」の様子をお届けする。

    相川真由美

    フリーライター/鉄鋼業やIT系やエンタメ関連の雑誌やWeb媒体の編集者を経て、フリーの記者として活動中。海外は一人旅がほとんど。趣味は世界のディズニーのパーク&リゾート巡り。最近は年間パスポート片手に日々舞浜通い。うなぎとチョコレートが好物で、旅の基本は“出されたものは全部食べる”。激辛とうがらしから謎の木の実まで挑戦するのがモットー。

    カテゴリー