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 将来のものづくりのを考える上で大きなキーワードとなっている「DX」(デジタルトランスフォーメーション=最新のデジタル技術を駆使したデジタル化時代に対応するための企業変革)。IoT(モノのインターネット)、AI(人工知能)、ロボティクスなどデジタル機器とネットワークを生かしたものづくりが中規模溶接事業所にまで広がってきている。本紙ではシリーズ(不定期)で中規模溶接事業所によるDX化の取り組みを紹介する。今回は「デジタル板金工場」を目指して全従業員にタブレットを支給し、溶接工程などの「見える化」を図るフジムラ製作所(埼玉県川口市、藤村智広社長)の取り組みを紹介する。 同社は、ティグ溶接やレーザ加工などの精密板金加工を得意とし、産業機械や医療用機械向けのステレンス製筐体および部品などを製造する。溶接方法はティグ溶接が多いが、同社は約500社の顧客と取引しており、顧客の産業分野や受注する製品が多岐にわたるため、ハンドトーチ型YAGレーザ溶接や炭酸ガス半自動アーク溶接などの溶接方法や様々な素材や板厚の溶接にも対応する。 同社は受注単位が10個以下の多品種少量生産の製品が多く、溶接条件も多種多様であり、溶接ロボットを使用した自動溶接よりも溶接士の技能による溶接の方が品質と生産性を確保する上で適しているという。 DX化で特徴的なのは、全従業員にタブレットを支給し、生産管理や技能向上に活用していること。例えば溶接の場合、溶接作業指示書にあるバーコードを溶接士が溶接の着手前、中断、再開、完了後などにタブレットのカメラで読み取ることで、誰が、どの製品を、どれぐらいの時間を使って溶接しているかなどの情報を社内全体のネットワークによって共有・直積し、進捗状況の管理に役立てている。 特に、同社は本社に併設した本社工場のほかに、同じ市内に第一工場と第二工場の2ヵ所に生産拠点を持つが、個々に入力したデータは社内ネットワークを通して共有化され、工程の進捗状況は社内ネットワークで繋がり、各工程に大型モニターを設置し「見える化」している。 また、多品種少量生産の工場に少なくないリピート製品において、再現性や溶接士の技能によって品質バラつきを抑えるツールの一つとしてアルファTKG社製の生産管理システム「alfaDOCK」が活用している。 これにより、支給されたタブレットで撮影した製品の溶接部の写真はバーコード化した製品番号に紐づけられ、自動でデータとして蓄積する。蓄積したデータベースは、過去の製品情報としていつでもアクセスすることができる。例えば、溶接士がリピート製品や条件が近い製品を溶接する場合、溶接条件などの情報や溶接部の写真を過去のデータベースを参考にし、確認しながら溶接することで経験が少ない溶接士であっても高度熟練技能者の溶接品質に近い溶接をすることができる。 同社溶接加工グループの塩沼秀登課長は「受注内容によっては製品の溶接部分におけるユーザーからの溶接に対する設定がほとんどなく、溶接士の知見と技能や技術で溶接条件を定める場合もある。そうした製品がリピートとなった場合の再現性や品質のバラつきをいかになくすかが課題だったが、同システムにより、撮影した溶接部の写真が製品番号に紐づけられたデータとなったことで、ビードの形状や大きさなど溶接品質が『見える化』し、溶接品質が向上した」と同システムの効果を語る。 同社では20代、30代の溶接士が8割を占めるが、タブレット端末は若手の教育にも活用している。溶接作業を撮影した動画を共有し、タブレット端末から観覧することで溶接の予習、復習を容易にした。同社の専任溶接士は約15人で、ステレンス鋼のティグ溶接のJIS基本級と専門級は昨年に入社した外国人技能実習生を除くと大半が取得している。 同社は「デジタル板金工場」をテーマに受注から設計、製造、梱包、出荷まで一括して社内ネットワークに繋がれた管理システムを構築し、納期の大幅な短縮、品質および生産性を高めている。こうした取り組みもあり、2020年度はコロナ禍という状況でありながらも、売上は前年度より増加で推移。将来、市内に業務拡大のため新工場を開設する構想もあるという。 同社では社員に会社の売上や利益などを公開。DXによって生産性向上および売上と利益が増加した成果を社員へ「見える化」している。 藤村社長は「経営者側の生産性向上や利益を上げたいという理屈だけでハードとソフトを導入してDXを推進したところでうまくはいかない。社員が働きやすい環境、仕事に対するモチベーションをあげるための手段の一つとしてDXがある。当社のデジタル板金工場というテーマも持続的に利益が出せる職場にすることで社員の待遇および職場環境に還元し、社員が働き続けたい、工場で働きたいと思う人が増えて欲しいという思いがある」と同社の取り組みについて語る。 さらに、「溶接工程やレーザ加工をはじめとする工場のデジタルトランスフォーメーション(DX)と呼ばれる取り組みは現場で働く社員にとって導入することで働きやすいというメリットが実感でき、業務に対してのモチベーションが高まるシステムであることが重要。そして、DXによって生産性や利益率向上したことも社員へ『見える化』し、還元することにより製造現場で働きたいという人が増えていくのではないか」とDXを導入するためのポイントを強調する。

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