飛島建設株式会社と東日本電信電話株式会社(以下、NTT東日本)、日本電信電話株式会社(以下、NTT)は3日、建設業界におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進する新会社「株式会社ネクストフィールド」を、4月1日に設立すると発表した。建設現場でのIT関連業務のBPOを提供することで、現場のDXをサポートするとともに、建設現場での資材調達などに関するECプラットフォームの提供にも取り組む。【この記事に関する別の画像を見る】 資本金は4億9000万円で、飛島建設が50%、NTTグループ(NTTおよびNTT東日本)が50%。社長には飛島建設出身の大堀裕康氏が就任する。本社は東京・渋谷に置き、社員は20人でスタート。5年後に売上高50億円以上を目指す。 ネクストフィールドの社長に就任する予定の大堀氏は、「NTTグループの最先端のICT技術力、多岐に渡るアセット、地域密着の営業力と、飛島建設が持つ建設業の知見、建設現場に精通した建設技術者、業界で先行している建設現場のDXの実績を組み合わせていく。生産性の向上、働き方改革、現場の標準化、安全性の確保といった建設現場の課題を解決することで、建設現場であるフィールドに、デジタルトランスフォーメーションをもたらし、新たな価値を提供する」と抱負を述べた。 社名のネクストフィールドは、建設現場のフィールドと、そこから建設業の次世代を目指す「ネクスト」を組み合わせたものだと説明。「一過性のものではなく、現場に寄り添い、常に付加価値のあるソリューションを提供し続けることを使命としている。『次なる(ネクスト)建設現場(フィールド)』の実現を目指す」とした。 新会社の具体的な取り組みとしては、「ICT業務の現場監督」、「ICTサービス・業務改善サービス」、「ECプラットフォーム」の3点を挙げる。 このうち「ICT業務の現場監督」では、建設現場とICTのノウハウを持つ人材を「IT監督」としてDXに困っている建設会社に提供し、現場のDXをサポート。ニーズにあわせたソリューションを、導入から保守までワンストップで対応するという。 「現場を理解しているIT監督がニーズを的確にくみ取り、どんなサービスが必要なのかを判断。最適な建設現場DXを提案する。ITツールやデバイスの導入支援、導入後の運用保守、IT関連の現場監督代行をする」という。 IT監督が取り扱う商材は、監視カメラやスマートグラス、顔認証システムなどの各種デバイス、ローカル5GやWi-Fiなどのインフラサービス、マルチデバイスの運用保守、ヘルプデスクなど幅広い。IT監督は、当初は10人体制でスタートし、事業の拡大とともに増員を図る。 「現時点では、建設現場とICTの両方をカバーできるIT監督のスキルを持った人材がいないため、それぞれの知見を持った2人が1組で動くなど、チームとして対応することになる。IT監督に頼めば、現場のすべての困りごとをワンストップで解決できる環境を実現する」としている。 2つ目の「ICTサービス・業務改善サービス」では、建設現場に必要なサービスを、自社開発サービスから他社開発サービスまで幅広くラインアップするとともに、現場の課題を的確に抽出し、新たなサービスの企画、開発、提供を行う。具体的には、監視カメラの中央制御機能を開発中であるほか、顔認証による入退出管理顔認証の提供、多言語翻訳機能を搭載したスマートグラスなども提供する。 「建設現場のどの位置に監視カメラを設置すれば最適かといったノウハウは、現場を知るわれわれが蓄積している。建設現場は専門用語も多く、特殊な環境でもある。そのためメーカーはなかに入り込みにくいことが多く、そこにITサービスが浸透してこなかった理由がある。新会社は、メーカーよりも強みが発揮できるだろう。今後、外国人労働者が増えれば、スマートグラスの多言語翻訳機能を使っての業務支援やコミュニケーション支援が可能になるが、こうした提案も進めていく」とした。 3つ目の「ECプラットフォーム」では、建設現場におけるアナログな購入スタイルを変革。オープンなプラットフォームの提供により、あらゆる建設関係者が利用できるサービスプラットフォームを提供するという。建設資材や現場で使う道具、保険サービスなどを購入することが可能であり、バックオフィスの軽減にもつなげることができるとのこと。「大手建設会社から、建設現場、専門工事店、職人一人ひとりまでが利用できるECプラットフォームを構築していく」と述べた。 建設現場に必要となる道具や日用品などは、すぐにでき、翌日に提供する環境を用意するという。また、生コンや鋼材などの大型資材にも順次範囲を拡大し、3年後から売り上げ拡大に向けてサービスを本格化させる考えだ。 このほか新会社では、将来に向けた取り組みとして、建設現場に必要なサービスの提供を強化。ロボティクスの導入による建設業務の自動化、画像AI技術を活用した安全サポート、KY(危険予知)の実現といったDX推進を図る。また、現場における調達プロセスのDX化により、資材調達の適正化、物流システムと連携したジャストインタイムでの調達など、建設現場のDXを推進していくという。 大堀氏は、「建設現場が本来やらなくてはならないクオリティ、コスト、デリバリー、セーフティ(QCDS)といった業務に集中できる環境づくりを支援できる。持続可能な建設業界への変革が可能になる」と述べるとともに、「建設現場のDX支援を通じて、生産性向上と安全性確保により、社会インフラ構築、維持を担う建設業界の課題を解決。持続可能な社会や地方創生への貢献につなげるとともに、次世代への変革を実現していく」と語った。 一方、飛島建設の乘京正弘社長は、「新会社は、いままでにない唯一無二のサービスを提供する。2020年6月から、NTT東日本とともに、建設業の課題解決と活性化に向けてDXによる共創を進めてきた。建設業界のさらなる発展に寄与できると考え、新会社を設立し、事業展開を加速し、社会課題の解決、地域創生への貢献という新たなゼネコンの使命、あり方を具現化していく」と述べた。 またNTT東日本の井上福造社長は、「今後、中小規模の工場や建設現場では、5Gなどの導入が積極的に進められることになるだろう。だが、大切なのは通信環境をどう使うかということである。これまでにもさまざまな提案をしてきたが、業界のニーズに応えるには、その道のプロに勝るものはなく、建設業界では飛島建設が強力なパートナーになると考えた。人手の代わりに動く機械やロボット、さまざまな機能を提供するクラウドにつながる光と5Gといった道具はそろっている。これらの道具を宝の持ち腐れにしないように、しっかりとプロデュースし、蓄積したデータを活用して、新たな付加価値を提供するのが新会社の役割になる」とした。 加えて、「NTT東日本は既存技術の提供を行い、NTTは研究開発連携で参加することになる。具体的にどんな技術を提供してもらうかは決まっていないが、現場でのさらなる通信の高速化、認証精度の高度化、AIによるデータ分析に関わる技術などが想定される」とも述べている。 なお建設業界は、就労人材の高齢化を背景に、技能労働者数が減少。2020年の技能労働者は327万人だが、2025年には286万人にまで減少すると予測されている。だが、建設投資は50兆円規模で推移すると見られており、生産性の向上が求められているとのこと。 大堀氏は、「ここにDXを活用する必要がある。だが、DXを理解し、取り組んでいる日本の企業は全体の15.7%にとどまっており、しかも大企業が先行しているにすぎない。さらに産業別に見ても、建設業界はDXへの取り組みが最も遅れており、わずか11.4%にとどまっている。建設業界では、DXに対応できる人材がいないこと、必要なスキルやノウハウがないことに加えて、建設現場がテンポラリーで日々変化し、有期であり、場所が転々とする特殊性があり、さらに異なる企業のさまざまな人材が就労しているといった特徴を持つ。それが建設業界でのDXが遅れる要因になっている」と指摘する。 さらに、「建設業界は約47万社で構成されるが、その大半を占めているのが中堅・中小建設会社である。新会社(ネクストフィールド)では、こうした企業に対してサービスを提供していくことになる。だが、まずは元請け業者にアプローチしていくことになるだろう。すでに顔認証による入退出管理などの一部のツールの提供では引き合いがある」などと述べた。
クラウド Watch,大河原 克行
最終更新:Impress Watch