ロシア侵攻、情報戦はウクライナに軍配

【3月7日 AFP=時事】ロシアによるウクライナ侵攻をめぐり、ソーシャルメディア上での情報戦ではこれまでのところウクライナが優勢と、専門家は受け止めている。

 ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー(Volodymyr Zelensky)大統領は、暗殺の脅威にさらされながらも激しい爆撃が続く首都キエフにとどまっている。政府は世界の支持を得ようと情報戦に躍起だ。

© Mikhail KLIMENTYEV / SPUTNIK / AFP アエロフロート・ロシア航空の従業員とポーズを取るウラジーミル・プーチン大統領(2022年3月5日撮影)。

 英語字幕付きのゼレンスキー氏のビデオ演説は毎日配信され、人気を集めている。国防相と外相は、洗練されたグラフィックを使ってウクライナ軍による抵抗の成果を公表する。

© AFP PHOTO /UKRAINIAN PRESIDENCY PRESS OFFICE ウクライナ・キエフで演説に臨むウォロディミル・ゼレンスキー大統領。同国大統領府提供(2022年3月4日撮影、提供)。

 ウクライナ側がミサイルでロシアのヘリコプターを撃墜した場面や、農民がロシア軍の装備をトラクターでけん引する様子など、民間人による動画も拡散されている。

 爆撃で故郷の街を破壊された市民が泣きながらがれきの中を歩く様子を自撮りした動画は、世界の人々の心を捉えた。

 ロシアの戦闘機十数機を撃墜したというパイロット「キエフの幽霊」や、ピクルスの瓶で無人攻撃機を撃墜したと言い張るキエフ在住の女性など、真偽が検証できないコンテンツもある。

 偽情報対策を手掛けるフランス企業「プレディクタ・ラボ(Predicta Lab)」の創設者、バティスト・ロベール(Baptiste Robert)氏は「初期段階では、国際世論への働き掛けにおいてはウクライナの情報戦が明らかに勝っている」と語った。

「最も印象的なのは一体感がある点だ」とロベール氏。「ウクライナの人々は今回の戦争を記録したいと強く望んでいる。何か起きれば携帯電話を取り出す」

 ロベール氏は、ツイッター(Twitter)で拡散されている親ウクライナ動画の大半は本物だとしながら、ファクトチェックの結果、事実が誇張されていたことが判明したものもあると話す。

ロシア侵攻、情報戦はウクライナに軍配

■巻き返し

 黒海(Black Sea)の小さな島の警備隊員13人が、ロシアの軍艦に悪態をついたのを最後に全員戦死を遂げたとの情報もあった。ウクライナ当局は後に全員の生存を認めた。フランス・パリのウクライナ大使館は、誤情報は意図的なものではなかったとしている。

 ロシアには、2016年の米大統領選でドナルド・トランプ(Donald Trump)氏を勝たせようとして介入したのではないかとの疑惑がある。そうしたこともあり、情報戦巧者とみられていた。

© AFP PHOTO / Facebook account of Volodymyr Zelensky カメラに向かって話すウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領。同氏のフェイスブックアカウントに投稿された映像より(2022年2月26日撮影)。

 だが、今回はこれまでのところ、ロシア政府の情報操作は奏功していない。

 戦略国際問題研究所(CSIS)で国際安全保障プログラムを専門とするエミリー・ハーディング(Emily Harding)氏は、ロシアは「巻き返しを図るだろう」と予想する。ただ、軌道に乗るにはしばらく時間がかかるとしている。

© AFP PHOTO / Facebook account of Volodymyr Zelensky カメラに向かって話すウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領。同氏のフェイスブックアカウントに投稿された映像より(2022年2月25日撮影)。

 ハーディング氏が予測するのは、「ウクライナの部隊が降伏したと思わせるような偽情報をばらまく」ことだ。

 ロシアは国際世論はあまり気にしていない様子だ。ウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領に対する国内の支持を維持することに注力している。

 そのため政府は独立系メディアを閉鎖。フェイスブック(Facebook)を遮断した他、ツイッターも制限した。

© AFP PHOTO / Facebook account of Volodymyr Zelensky カメラに向かって話すウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領。同氏のフェイスブックアカウントに投稿された映像より(2022年3月4日撮影)。

 米クレムソン大学(Clemson University)メディアフォレンジック・ハブ(Media Forensic Hub)の主任研究員、ダレン・リンビル(Darren Linvill)氏は「(情報戦でウクライナ側が)優勢なのは本当だが、結局のところプーチン(大統領)が最も気にしているのは支持者が自分のことをどう思っているかだ」と語った。

© AFP PHOTO / Facebook account of the Ukrainian Interior Ministry ウクライナの首都キエフで、ミサイル攻撃を受けたテレビ塔から立ち上る煙。同国内務省のフェイスブックページより(2022年3月1日公開)。

 ウクライナ側の抵抗を受けて作戦はロシアの想定以上に長引く見込みだ。情報戦も新たな局面を迎えるとみられる。

© AFP PHOTO / TELEGRAM / @VITALIY_KLITSCHKO ウクライナの首都キエフで、ミサイル攻撃を受けたアパート。ビタリ・クリチコ市長がメッセージアプリ「テレグラム」のアカウントで公開した防犯カメラの映像より(2022年2月26日公開)。

 ロベール氏は、ロシア軍に制圧されるウクライナの都市が増えていけば「抵抗を続けている地域が新たな情報戦を始め、ロシア側もそれに対抗してくるだろう」と話した。

© AFP PHOTO / Ukraine Emergency Ministry press service / handout ロシア軍の攻撃を受けたウクライナ・ハリコフの州庁舎前。ウクライナ非常事態庁がメッセージアプリ「テレグラム」で公開(2022年3月1日公開)。

【翻訳編集】AFPBB News

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