「ギャー」。アンケートに答えた1人で、神奈川県の認可保育所で働く保育士の女性(30)は数カ月前、担任する1歳児クラスで男児が悲鳴のように泣くのを聞きました。別の保育士に引き継いで帰宅しようとしていた時でした。続けてその保育士の怒鳴り声。慌てて部屋に戻り、保育士に声を掛けましたが、何事もないように振る舞われました。
翌朝、男児の左腕には、強くつかまれたようなアザが。「まさか」と思いながら園長に報告しましたが、事情を聴かれたその保育士は、翌月辞めていきました。
女性は別の保育所でも虐待を目の当たりにしました。年配の保育士が、トイレに失敗した1歳の女児を突き飛ばし、電気の消えた暗いトイレに閉じ込めました。女児が泣きやまないため、その保育士は握りこぶしを女児の口に押しつけ、黙らせていました。「ひどいと思ったが、他の子どもの面倒を見るので精いっぱいで何も言えなかった」。後日、副園長に報告すると「あの先生がするわけがない」「証拠は?」と否定されました。
国の配置基準では、認可保育所で保育士1人がみる園児数は、ゼロ歳児は3人まで、1、2歳児は6人、3歳児は20人、4、5歳児は30人です。これは最低限の基準で、この通り配置しても、保育士が保護者対応や体調を崩した子の世話などにかかりっきりになると、ほかの保育士が見る園児の人数が増えます。
この女性も、15人の2歳児を約1時間半、1人でみた経験があります。手が回らず、子どもたちがあちこち動き回り、けんかも始まりました。「『ここに座っていて!』と強くしかってしまった。何かあってはいけないという緊張感でつらかった」と打ち明けました。
東京都世田谷区の認可保育所で働く職員の女性(53)は、ゼロ歳児を連れて散歩に行く公園で、他園の保育士が散歩用のカートに園児をぎゅうぎゅう詰めにしたり怒鳴ったりしているのを見かけます。砂場内だけで遊ぶよう子どもたちに指示し、出ようとすると「言うことを聞かないなら帰りなさい」と声を荒らげていました。
「少ない保育士で大勢の子どもを安全に散歩に連れ出すのは大変。けがをさせて親から文句を言われるのが怖いのかも。本当はどの保育士も子どもの育ちを一番に考えたいはず。そういう保育ができるように、人手を増やしてほしい」と訴えます。
自治体も積極的に情報収集 通報専用の窓口も
保育施設での虐待など不適切な保育について、自治体も積極的な情報収集に取り組み始めています。
千葉市は、市認定の認可外保育施設で保育士による虐待事件があったのを機に、4年前、ホームページに匿名でも情報提供できる専用のメールフォームを設けました(こちらです)。それまで電話相談はありましたが「通報の心理的なハードルを下げたかった」といいます。
約4年で計15件の情報が寄せられました。保育士の園児へのしかり方、対応の仕方に不安を覚える保護者や同僚職員からの通報が目立ちます。市は通報を受けると、施設に状況を確認し、巡回指導をします。
宇都宮市は、2年前に専用電話を開設し、開庁時間内に職員が直接対応しています(市公式サイトの説明はこちらです)。通報は年数件程度ですが、担当者は「保護者の不安解消につながっているのではないか」と話しています。
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【2019年3月25日 追記】多くのコメントが寄せられたことを受けて、現役の保育園園長を取材しました。虐待や不適切保育をなくすために、現場で今すぐ取り組めることもあります。以下の記事をご覧ください。 「〈反響に応えて〉『保育士の虐待』にコメント多数 現役園長に解決へのヒントを聞きました」(3月22日)
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